宮本輝著「流転の海」の風景(その1)

はじめに

宮本輝氏の父・熊市氏を主人公のモデルとして小説です。熊市氏は小説の中では松坂熊吾(まつざかくまご)という名前で登場し、第一章で生まれる「伸仁」は著者自身がモデルです。時代は昭和22年・戦後2年後の大阪の闇市(やみいち)から物語が開始します。

「流転の海」は シリーズの1冊目でその後、第二部「地の星」(「地の星」の風景へ)や第三部「血脈の火」(「血脈の火」の風景へ)などを経て第九部「野の春」(「野の春」の風景へ)をもって完結します。ここからはその初刊をSNSの力をお借りして可視化していきたいと思います。

登場人物

先ずは前半に登場する主要な登場人物をご紹介しておきます。他にも一癖も二癖もある人物が登場しますがその都度レビューしていきます。
松坂熊吾・・・この物語の主人公。愛媛県宇和郡から出てきて自動車の中古部品会社・松坂商会を成功させるが第二次大戦で財産を失う。
松坂房江(ふさえ)・・宮本輝氏の母がモデル
海老原(えびはら)太一・・・同郷の熊吾を頼り上阪し松坂商会に勤務。その後立ち上げた亜細亜商会が軌道に乗る
井草正之助・・松坂商会の元番頭。会社の空襲被害後、故郷岐阜に引き上げる
辻堂忠・・・闇市で熊吾と出会う。後に松坂商会の社員となる

映画化もされています

ちなみにこちらのの小説は東宝が1990年に映画化。ビデオもVHSで発売されました。上の登場人物に役者を当てはめると下の通り。そうそうたるメンバーが出演していたことがわかります(敬称略)。
松坂熊吾・・森繫久彌
松坂房江・・野川由美子
海老原太一・・西郷輝彦
井草正之助・・藤岡琢也
辻堂忠・・佐藤浩市

大阪の闇市

物語は熊吾が裸一貫から立ち上がるために行動を開始する場面からスタート。熊吾はこのころ空襲の激しかった大阪を避け神戸の六甲道に住んでいました。番頭であった井草を呼び戻すために岐阜を訪ねた熊吾は電車で神戸に戻る途中、大阪のホームに立ちます。駅のホームからはバラックで作られた闇市の風景が見えました。

下に引用させていただいたんは1946年の梅田の闇市とのこと。この写真の中に「古びた軍帽をかぶった男たち」や「ソフト帽を頭にのせた男たち」、「モンペをはいた子連れの女」などを探してみましょう。

伸仁誕生

自宅の様子は?

熊吾の自宅は六甲道の石屋川沿いに上ったところと書かれています。下の写真は今の石屋川周辺の景色。空襲時は黒焦げになった人で埋まったと記述もある悲しい歴史をもつところです。当時は13坪(縦横が7mの広さに相当)以上の家は建ててはいけない国の法律があったとのこと。熊吾もそのこぢんまりとした家に向かいます。

予定よりもひと月も前に

家に帰ると既に子供が生まれたとの報告を受けた熊吾。出産予定よりも1か月も早く生まれた小さな赤ん坊のところに直行します。子供が自分と似ているのに気付いた熊吾。通常は「太い眉ときつい目、獅子鼻と薄い唇」の熊吾の顔が少し緩む場面もあります。名前を「伸仁」としたのも熊吾。届けにいった役所の係員の態度から戦前は「仁」の字は皇室の名前とかぶるため控えられていたことが推測できます。ちなみに宮本輝氏の本名は「正仁」さんです。役所から三宮駅に向かって歩くと当時流行りの岡晴夫「啼くな小鳩よ」が流れています。戦後の日本を元気にした岡晴夫の歌。気になる方はSNSなどで音源を探して当時の雰囲気に浸ってみてはいかがでしょうか?

海老原太一

熊吾の愛媛の後輩である海老原太一は松坂商会で熊吾から仕事を教わった後に独立。神戸でも有数の貿易会社の社長になりました。恩を感じながらも自社内に来て部下の前で「太一」と呼び捨てにしたり怒鳴り散らしたりする熊吾の態度には不満を覚える太一。この2人の今後の関係も楽しみです。太一の会社は神戸港近くのレンガ造りの3階建てのビル。周辺では唯一戦災を逃れた建物でした。

下に引用させていただいたのは同様にレンガ造り3階建ての東北大学片平キャンパス内の建物。こちらも耐火性の強いレンガのおかげで現在でも美しい姿を保っています。部下を従えて颯爽と階段を上る太一の姿を想像してみてください。

仕事を再開する行動を開始した後にすぐに子供が生まれるというイベント続きの熊吾。希望とともに不安をかかえながらの出発でした。

旅行の情報

宮本輝ミュージアム

大阪府茨木市にあり宮本輝氏の母校でもある追手門学院大学の附属図書館内にある施設です。常設展では宮本輝氏の原稿などの愛用品が展示されています。下に引用させていただいたように過去(2019年)には「流転の海」シリーズの完結を記念した企画展が実施されるなど、タイムリーな展示が行われています。入場は無料となっていますのでお気軽にお出かけください。

[住所]大阪府茨木市西安威2-1-15
[電話番号]072-641-9638(昭和の森会館)
[アクセス] JR茨木駅からバスを利用。約20分の追手門学院前で下車
[参考サイト]https://www.otemon.ac.jp/event/other/_8834.html

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