井上靖著「夏草冬濤」の風景(その8最終回)

旅立ち

「夏草冬濤」の風景も最終回です。ネタバレを避けながら小説をイメージしやすい風景をご紹介していきます。

寺に引っ越すことに

四年生に進級した四月の後半、成績が下がる一方の洪作のもとに湯ヶ島から祖父がやってきます。洪作の母からの依頼で沼津にある「妙高寺」から通学することに決まったとのこと。引っ越しの準備が必要ですが洪作の所有物といえば布団と下の写真にあるような行李(こうり)だけでした。

寺で新生活を始めるに当り必要なものがいくつかありました。例えばコーモリ傘は伯母などから借りていましたが紛失してしまったようです。下に引用させていただいたのは雨の日の少し古い時代の写真です。時代は不明ですが印刷の文字が右からなので戦前のものでしょうか?傘の形は今と大きく違わないように見えます(当然ですがビニール傘はありません)。他にも下駄や洗面器、万年筆なども新しく購入することになります。下駄以外は現在でも普通に使う日用品ですね。

御成橋から船に乗り込む

金枝や藤尾、木部、餅田と洪作の5人は磯村家からの帰途に話がでた西伊豆・戸田への旅に出ることになります。目的は「歌をつくるため」という名目。御成橋の脇にあった船着き場から伊豆方面に向かう発動機船に乗り込みます。行程は二泊三日で「重寺」なる藤尾の親戚で一泊する予定です。下に引用させていただいたのは大正時代の利根川で運行した発動機船の貴重な写真です。ワクワクした気分でこのような船に乗り込む五人の少年たちの姿を思い浮かべてみます。

重寺で宿泊

その晩、藤尾の親戚の家で5人は枕を並べて寝ます。金枝と木部はノートに日記を書きつけ、藤尾は小説を読んでいます。小説はフィリップ著「ビュビュ・ド・モンパルナス」というタイトル。藤尾は「やたらに面白いんだ・・・読み出したら、やめられないんだ」といいます。洪作は「読み出したらやめられないような、そんな本が本当にあるだろうか」と思います。現在は絶版となっていますが中古での入手は可能です。日記用ノートもなく読む本もない洪作ですが、外の波の音やそれに混じる漁船の発動機の音に詩情をそそられます。

重寺の風景

慣れない外泊に興奮して眠れなかった洪作は次の日、昼近くまで眠ります。藤尾たちは釣船に乗って遊びに行き海で泳いで帰ってきます。下に引用させていただいたのは現在の重寺港付近の写真です。左側には水族館「あわしまマリンパーク」のある無人島が見えます。ここでは藤尾たちが「唇を紫色にしながら」泳いでいる姿をイメージしてみます。 5人は再び戸田に向けて港を出ます。

戸田の風景

昨日寝不足だった洪作は甲板にて上着を顔にかぶり陽光を遮りながら眠ります。汽笛の音で目を覚ました洪作に「おい、もう、すぐ着くぞ」と金枝が呼びかけます。「土肥の部落らしい民家の固まりと、白い砂と、松林とがインキを流したような青い潮の向こうに見えている」とあります。下に引用させていただいたのは昭和初期の戸田温泉の写真です。岩場で涼んでいるのは温泉客でしょうか?洪作たちも船からこのような風景を見ていたのではないでしょうか。

戸田に到着

到着も間近になって木部が歌を書きつけ洪作に見せます。「・・・・まなこ上げし空に 白き雲あり」というもの。「なるほど、綿でもちぎったような白い雲が何片か浮かんでいる」と洪作はつぶやきます。下に引用させていただだいたような風景だったでしょうか?波止場につくと彼らは未知の部落に入っていきます。「何かきらきらとしたものを採集にでも来た探検家の一員のような、そんな気持ちであり、またそんな足どりでもあった」と結ばれています。

旅行の情報

あわしまマリンパーク

洪作たちが宿泊した重寺周辺は釣りの名所としても人気です。海に浮かぶ無人島を利用した「あわしまマリンパーク」はペンギンの行列イベントやイルカやアシカショーでも有名。また、日本でも珍しいカエルを専門にした展示スペースもあります。派手なものから怖い顔をしたものまで通常でも50種類以上が展示されています。
【住所】静岡県沼津市内浦重寺186
【電話】055-941-3126
【アクセス】 沼津駅からバスを利用。マリンパークで下車
【参考サイト】http://www.marinepark.jp/

海のほてる・いさば

洪作たちが上陸した戸田港周辺は温泉地としても有名なところです。「いさば」は海沿いにある人気ホテルで屋上露天風呂からの夕日が絶景と話題です。観光シーズンになると沼津港から快速遊覧船・ドリームスターなる屋形船が運行します。洪作の船旅の気分を追体験できるかもしれません。
【住所】静岡県沼津市戸田3878-20
【電話】0558-94-3048
【アクセス】 修善寺駅からバスで戸田まで(約50分)
【参考サイト】https://www.isaba.co.jp/