宮本輝著「地の星」の風景(その6最終回)

故郷を後に

和田茂十の選挙活動やダンスホールなどが順調に進んでいた熊吾の前に様々な困難が立ちはだかります。大阪にいる千代麿からは新たな事業向けの物件が見つかったとの連絡も!ここではネタバレを避けながら小説に登場する風景をイメージしていきます。

茂十などのこと

熊吾たちは信仁の5歳の誕生日を祝うため御荘町の写真館にいった後、近くの海を眺めに行きます。ダンスホールも順調のためこのまま故郷で暮らしたいという熊吾。それに対し妻の房江は懇意にしている和田茂十の体調悪化や不気味な「わうどうの伊佐男」の動向などを挙げ「ゲンのええところとは違うような気がする」といいます。下に引用させていたいたのは愛南町の「松軒山公園」からの御荘湾の風景。中央に樅(もみ)の巨木を置き、真剣に将来のことを話す熊吾と房江、その脇に小石を拾って遊ぶ信仁の姿をイメージしてみます。

ダンスホールを閉めることに

順調だったダンスホールですが伊佐男の手下たちがやってきて「入口の近くの壁に凭れたまま、客たちを無言で睨みつけている」などの嫌がらせをはじめます。下に引用させていただいたのは当時の女性のファッション。小説中のダンスホールの客もワンピースなどの洋装の女性が多いようです。このような姿で踊る女性の姿を見ながら「わしらは何にもしちょらせん。ダンスっちゅうもんがどんなものんかを、こうやっておとなしいに見ちょるだけよ」とうそぶく伊佐男の手下の姿をイメージしてみます。ダンスホールには人が寄り付かなくなり営業を停止せざるを得なくなります。

伊佐男との決着

伊佐男の陰険な手口に閉口する熊吾でしたが父の墓参りの際、近所の老人から自分の父が伊佐男の命を救ったことを聞かされます。生活を苦にして我が子を手にかけようとする伊佐男の母に対し「この子が、将来、どんなすばらしい人間になって、自分をどんな幸福な母親にしてくれるじゃろうと考えて、草の根を食うてでも頑張らにゃいけん」と励ましたとのこと。その因縁におどろき「伊佐男を恨まん」と自分に言い聞かせます。そんな時、当の伊佐男が猟銃を持って近寄ってきます。下に引用させていただいたのは美しいれんげ畑の写真です。老人からこのを聞いた後、熊吾はれんげが満開の田んぼの周辺で寝転びながら伊佐男のことを考えていました。「遠くの牛の声やひばりのさえずりに耳を澄まし、近くの蜜蜂の羽音に聞き入った」という情景を重ねてみます。 どのような結末になったかは小説にてお楽しみください。

僧都川にて

大阪では病弱だった房江ですが愛媛で1年ほど暮らすと体調が良くなってきました。それを象徴するのが房江が得意だという僧都川での素手での鮎つかみです。下はその僧都川の現在の景色。小説では「房江は左手でスカートの裾をつかみ、右手を川の水にひたして、一尾の鮒(鮎ではなく・・・)に目星をつけると静止した」とあります。更に房江の右手が水中で一閃すると「水しぶきが熊吾の顔を濡らした。房江は一尾の鮒をつかんで、その手をたかだかとあげ、熊吾に微笑んだ」という鮮やかな場面。一緒に川に入りながら「お前がこんなにすばしっこい女やとは知らんかった」と驚く熊吾の表情もイメージしてみます。

菜の花畑でピクニック

最後にもう一つ印象的な場面をご紹介します。大阪に戻る準備を始めた熊吾が房江と甥の明彦を連れて満開の菜の花畑にピクニックに行くシーンです。畑の奥には枯れてしまった桜の老木がありそこには「一頭の巨大な付き合い牛がつながれて草を食んでいた」とあります。実はこの牛は小説の冒頭で熊吾が撃ち殺した茂十の牛と突き合いをする予定でした。今は引退して「穏やかな目で熊吾を見つめたり、尻や腰のあたりで飛び交う蜜蜂を尾っぽで払ったりして」います。下に引用させていただいたのは美しい菜の花畑の写真。奥にある大木のそばに牛を置き、その因縁を思いながらも木の下で「おにぎりと、卵焼きと、鰯の生姜煮」をのんびりと食べる熊吾たちの姿をイメージしてみます。

旅行の情報

松軒山公園

御荘湾を望む場面で風景を引用させていただいた公園です。小高い山を利用した公園で名物のスロープカーからは御荘湾だけでなくその向こうの九州まで見渡せます。8500本もの梅林が有名で春になると観光客でにぎわうところ。下に引用させていただいたような絶景を楽しめます。「地の里」巡りの立ち寄りスポットとしてもご利用ください。
【住所】愛媛県南宇和郡愛南町御荘長洲304
【電話】0895-73-1632
【アクセス】宇和島駅からバスで約50分
【参考サイト】https://www.iyokannet.jp/spot/733

一本松温泉あけぼの荘

熊吾や伸仁が生活した一本松にある温泉旅館です。四国88か所のお遍路さんの宿としても人気。日枝神社や法眼寺などの小説ゆかりの地も近くにあります。日帰り入浴も可能で大人510円という安さも人気。地元の方の利用も多いアットホームなスポットです。
【住所】愛媛県南宇和郡愛南町増田5470番地
【電話】0895-84-3260
【アクセス】くろしお鉄道・宿毛駅から車で10分
【参考サイト】https://www.town.ainan.ehime.jp/kanko/sightseeing/shukuhaku/akebonoso.html