司馬遼太郎著「空海の風景」の景色(その8)

密教の伝授

長安での生活

密教の伝法を受けるために入唐した空海。唐の第一人者は恵果(えか)和尚でした。すぐに門をたたくかと思いきや長安に入って5か月間連絡をとった形跡がありません。何をしていたのかということについては「われわれに想像の楽しみをあたえてくれる」と司馬氏はいいます。「すぐゆけば軽んじられる」とか「いきなり法統を譲ってもらうということにはならないものか」などと考えたのではともは推測されています。小説での空海は恵果和尚との出会いに向けて知識や技術を吸収していきます。下のような「サンスクリット語」もその一つ。インドから伝わった密教を理解するために必要な言語とされていました。

恵果和尚とは

恵果和尚は長安の青龍寺の僧で千人もの門人を抱える密教の正嫡。当時、精神原理を説く「金剛頂教」系と物質原理を説く「大日経」系の2つの派がありましたがその両方を受け継いでいました。主な師は「金剛頂教」系を受けた不空三蔵という快僧でした(下に肖像画の写真を引用させていただきました)。不空三蔵は呪術師としての能力が高く、玄宗皇帝などの歴代皇帝の前で派手な演出をすることにより密教の地位を上げたとも述べられています。

それに対し恵果は下の写真から推測できるように温和な性格だったとされます。能力はありましたが当時はやりの道教に対抗する活動に熱心でなかったため空海が入唐した時点で密教は「退潮気味であった」ようです。

青龍寺

しかもその恵果は病気勝ちで前年には病床に高弟を読んで遺言をしたとの話も伝わっていました。また、長安での一定期間の滞在で文壇での日本僧・空海の名声も高くなってきていました。機が熟したと感じた空海は5、6人の唐の友人とともについに恵果のもとに参じます。下の写真は恵果が本拠地とした青龍寺の引用写真です。「志明や談勝(空海の友人)らは空海を挟みつつ、その雑踏(見世物小屋や酒場に群がる人達)を分けて青龍寺の門に入ったにちがいない」という場面を下の景色に重ね合わせてみます。

恵果との対面

空海の書いた「御請来目録(しょうらいもくろく)」によると初対面の恵果和尚は空海を見るなり「大好、大好(たいへん良しの意)」と喜んだといいます。そして、なんの試問も行わず「すぐさまあなたにすべてを伝えてしまおう」と言い放ったとのこと。その時空海はどのような表情だったのでしょうか?小説には明記されていませんが少し驚きつつも案外平然としていたかもしれません。下の引用写真は青龍寺にある恵果和尚から空海への伝法の像です。5月に初対面をした空海は6月に「大日経」系、7月に「金剛頂経」系の伝法灌頂(法統を譲る儀式)を行い、8月には密教の最高位・阿闍梨(あじゃり)に就く伝法灌頂を行ったとされます。独学で密教を学んだ空海にわずか3か月で最高位を与えた恵果の厚遇を司馬氏は「異常というほかない」といっています。伝法が済んだ4か月後(空海との出会いの8か月後)の12月恵果は亡くなります。文中にあるように 「密教史上きわめて得難い機会に長安に入り、恵果にあった」ということになります。

密教の正嫡となる

法統を受け継いだ空海には次なる問題が立ちはだかります。密教にはたくさんの道具が必要とされますがそれを購入したり造らせたりしなければなりませんでした。上でも引いた「御請来目録」にはその品々が事細かく書いてあります。例えば下は金剛杵や金剛鈴といった密教法具。今でも密教儀式に必須とされる重要なものです。

下に引用させていただいたのは「両界曼荼羅」。左が「大日経」系を描く胎蔵曼荼羅を右は「金剛頂経」系を描く金剛界曼荼羅です。空海はこのような高価な品々を自費で調達するため20年分の生活費をわずか2年足らずで使い切る作戦にでます。

密教の正嫡となり儀式に必要な道具一式などを入手した空海は、予定されていた期間(20年)を縮め日本からやってきた使節の船に乗り込みます。無名の僧として唐に入った空海は密教の正嫡になるという劇的な進化を遂げて日本に戻ることになります。日本に戻った空海に待ち受けている驚きの事実とは?次回もお楽しみに。

旅行の情報

青龍寺

このお寺は恵果和尚が住んでいた官寺です。空海が初対面を果たし住み込みで修行をしたところです。今でも恵果や空海の銅像などが残り1000年以上昔のことを偲ぶことができます。下で参考にさせていただいた阪急交通社の中国旅行プランでもコースの一つとなっています。他にも西遊記でおなじみの玄奘(げんじょう)三蔵ゆかりの大雁塔などを観光したり西安名物の餃子やラーメンの原型の一つとされる刀削麺(とうしょうめん)なども堪能することができます。
【参考サイト】http://www.hankyu-travel.com/tour/detail_i.php?p_course_id=RT345NK&p_hei=10