井上靖 著「しろばんば」の風景(その4)

子供たちの行事

豊橋から戻ったころには秋の風が吹き始め、2学期が始まります。秋には神楽(かぐら)、年があけるとお正月や春の馬飛ばしなど、子供たちが楽しみにしているイベントがたくさんありました。今回は大正時代の風景をイメージできるような画像とともに洪作の姿を追っていきたいと思います。

神楽

小説には「10里ほど離れた村の人たち」が神楽を内職として許可されて、伊豆半島を巡っているとの記述があります。下のように獅子頭を2人でかぶる人や、漫才のコンビ、三味線・笛・太鼓をたたく人など6、7人のグループでやってくるのが一般的だったそうです。

村の家を1軒ずつまわり、お金を多くくれる場合はそれに見合う長い時間の演舞を行いました。洪作たちは毎日学校が終わると神楽見物にまっしぐら。勉強が手につかない日が続きます。

運動会

神楽が行ってしまうと次の秋の大きなイベントは運動会です。洪作が出場したプログラムの一つが「帽子とり」でした。今でいう「騎馬戦」でしょうか?最近は安全などの観点からプログラムから外されることも多い種目ですが、このころは目玉の一つとして普通に行われていました。張り切って出場した洪作ですがあっけない結末に終わります。

長距離競争

午後のメインイベントが長距離走ですが、洪作にとっては苦手な種目です。スタート前に叔母で臨時教員をしているさき子から「カミール」なる清涼剤を渡されます。ちなみに現在でも「カオール」という清涼剤が販売されていて「カミール」のモデルとも考えられます。amazonなどでも購入できますので気になる方は検索してみてください。

口コミでは味や香りは仁丹よりもマイルドとのことです。当時は元気をつけたり病気を予防したりできる、薬としても販売されていた商品。洪作はおまじないにかかったように走り続けました。結果がどうなったかは本を読んでのお楽しみということで・・・

お正月

次にやってくるイベントがお正月です。元日には早く起きて村の神社に初詣に行くシーンがあります。各々の家族が神妙な顔をして神社に向かう場面。このイベントの間だけは、いたずら好きな子供たちも神妙な面持ちでお参りをすますと、早々に帰途に就きました。避暑地としても人気の湯ヶ島周辺は冬になると積雪もある場所です。下の写真のような幻想的な景色が、見られた年もあったのではないでしょうか?

馬飛ばし

季節は飛んで春になります。4月に行われる「馬飛ばし」なる草競馬は、大人から子供までを夢中にさせる人気イベントでした。周辺の10箇所ほどの村の青年たちが、馬を自分達で準備しレースを行うというもの。馬といってもサラブレッドなどの競走馬ではなく、日常の農耕に使っている馬のため、コースをきちんと走らせるだけでも相当な技術が必要だったようです。

実際に洪作が目にしたレースでも、ゴールするだけで勝利というものもありました。下は他のエリアにて現在も行われている草競馬の風景です。後ろの観客の中で洪作たちが歓声を上げている姿をイメージしてみましょう。

馬飛ばしの楽しみ

開催場所は湯ヶ島から長野台地を通過して国士(こくし)峠を越えたところでした。約10Kmの距離は子供の足ではきついものでしたが、期待感に胸を膨らませ走り抜けていきます。

レース前の屋台での食べ歩きもイベントの楽しみ。いかの煮つけやしんこ団子、こんにゃくなど美味しそうなものがたくさん並んでいます。洪作たちのお小遣いでは買えるのは一品だけなので、真剣に選ぶ場面が印象的。洪作の友達がこんにゃくの大きさをめぐって、店のおばちゃんともめる場面はほっこりします。下の写真などでそのシーンを想像してみてはいかがでしょうか?

旅行の情報

馬飛ばしへの道

湯ヶ島から馬飛ばしに向かった子供たちを想像しながら自転車やバイク、車でツーリングするのも楽しみ方の一つです。洪作たちが一休みした国士峠や、今ではわさび田がたくさんある馬飛ばし会場周辺(筏場)などに立ち寄ることができます。周辺を走る県道59号線は今でも道が細く、車のすれ違いが難しい場所もあるので運転にご注意ください。

[住所]静岡県伊豆市湯ヶ島
[電話番号] 0558-85-1056(伊豆市観光協会天城支部)
[アクセス]東名沼津ICから国道136、414号線などを経由
[参考サイト]http://kanko.city.izu.shizuoka.jp/form1.html?pid=2465

長距離走のゴール地点

運動会の長距離走のゴールとなった長野集落周辺は、今では「荒原(あれはら)の棚田」としてプロの写真家も訪れる絶景スポットです。一生懸命に走る洪作には、下の写真のようなのどかな田園風景はあまり目に入らなかったかもしれません。

[住所]静岡県伊豆市湯ヶ島長野
[電話番号]0558-85-1883(伊豆市観光協会)
[アクセス]新東海バス・湯ヶ島バス停から徒歩で約45分
[参考サイト]http://kanko.city.izu.shizuoka.jp/form1.html?c1=5&pid=4037