井上靖 著「しろばんば」の風景(その3)
豊橋で夏休みを満喫
父母や妹が住む豊橋は、湯ヶ島とはスケールの違う大都市でした。そこで、練兵所や神社などを観光し、喫茶部で当時としてはハイカラなゼリーを食べたりします。今回は洪作少年の興奮が伝わるようなSNSの写真を引用させていただきながら小説「しろばんば」を追っていきます。
豊橋に到着
豊橋に到着した洪作たちを母・七重の出迎えを受けます。大正時代はまだ車の普及は進んでおらず、駅からの主要な交通手段は人力車でした。下に引用させていただいたのは、駅前に人力車が走る昔の沼津駅前の風景です。この写真の中に洪作を置き、おぬい婆さんとともに父母の家へ向かう姿をイメージしてみましょう。
数日間の滞在でしたが久しぶりに父母や妹・小夜子と暮らした洪作。伊豆・湯ヶ島とは違う都会の生活にとまどいながらも、楽しい思い出を作っていきます。
豊橋観光
練兵場・歩兵第18連隊
豊橋で洪作とおぬい婆さんは、周辺観光も楽しみました。高師ヶ原(たかしがはら)の練兵所もその一つで、現在は公園(高師緑地)として整備されています。
ちなみに、当時の豊橋は陸軍の歩兵第18連隊や第15師団が置かれる重要な軍事拠点でした。下に引用させていただいた写真の左側にあるのは歩兵第18連隊の史跡で、豊橋公園内にある哨舎(しょうしゃ)跡です。洪作が訪問した時代には、見張りの兵隊が怖い顔をして立っていたと思われます。
練兵場・第15師団
第15師団の遺跡もたくさん残っています。特に有名なのは旧陸軍第15師団の司令部庁舎で、現在は愛知大学記念館として一般公開されています。もちろん当時は入ることができませんでしたが、下写真のような師団長室も見学可能です。当時をうかがえる資料がたくさんあり、洪作が訪問したころの豊橋をイメージすることができます。
豊川稲荷といなり寿司
母・七重に連れられて洪作とおぬい婆さんは豊川稲荷にもお参りしました。この神社は室町時代の創建。洪作が訪問した大正時代には門前町の豊川地区商店街は今をしのぐ賑わいでした。
このエリアでは「いなりずし」が名物で、神社の目の前には創業100年以上の老舗「門前そば・山彦」があります。下に引用させていただいた「いなほ稲荷寿司」が名物で、きしめんやそばも美味しいと評判です。ここでは、洪作たちたちがこのような名物グルメを味わっている姿をイメージしてみます。
老舗和菓子店・若松園
最後のお泊りの夜、洪作は七重たちに連れられて豊橋の繁華街にいきます。そして、「若松園」なる和菓子店の喫茶部に入り、スイーツを食べさせてもらいます。江戸時代創業の若松園は当時でも老舗として有名なお店でしたが、下に引用させていただいた写真のように、今でも風格を保ったまま営業を続けています。
若松園の黄色のゼリー
洪作が喫茶部で食べた「黄色いゼリー」は小説の中でも印象深く語られています。その美しい姿は「スプーンを入れるのが勿体ない」と表現されるほど。レシピが戦災で失われますが、井上靖氏の生誕百年記念として平成19年に復刻されました。
日向夏が入ったさわやかな香りが人気で、夏にもぴったりのスイーツです。若松園本店や豊橋駅にあるカルミア店などで取り扱いがあります。
お祭りの金魚すくい
繁華街の金魚屋では浴衣をきた子供たちが金魚すくいに夢中です。洪作もその風景を興味深そうに眺めていました。店主から少しだけすくわせてもらったり、他の子供たちがトライするのを眺めたりして楽しんでいた洪作。この後大きな事件が起こりますが、詳細なストーリーは小説をお読みになってお確かめください。
豊橋で貴重な体験をした洪作は再び湯ヶ島に戻ってきます。夏休みも終わって次回からは2学期が開始。次の風景もお楽しみに。
旅行の情報
愛知大学記念館
第15師団の師団長室がある愛知大学記念館は無料で見学ができます。研究員の方から詳細な解説を聴きたい場合は、事前に予約をしておきましょう。下に引用させていただいたようなレトロな佇まいを楽しめる貴重なスポットです。
[住所]愛知県豊橋市町畑町1-1
[電話番号]0532-47-4139
[アクセス]豊橋鉄道渥美線・愛知大学前で下車
[参考サイト]http://edu.aichi-u.ac.jp/toa/index.html
門前そば・山彦
こちらは豊川稲荷の近くにある「いなり寿司」で有名なお店です。 名物「いなほ稲荷ずし」は具材にひじきやにんじん、しいたけのほか「くるみ」も入っている豪華な食べ物です。お土産にもいかがでしょうか?
[住所]愛知県豊川市門前町1
[電話番号]0532-52-4641
[アクセス]JR豊川駅から徒歩7分
[参考サイト]https://yamahiko.net/
若松園
最後にご紹介するのが若松園。レトロな外観を楽しんだ後は店内でスイーツ探しを楽しめます。昭和天皇に即位のお祝いに献上した「ゆたかおこし(下に引用させていただきました)」など、黄色いゼリー以外にも美味しそうなスイーツが目白押しです。
[住所]愛知県豊橋市札木町87番地
[電話番号]0532-52-4641
[アクセス] JR豊橋駅から徒歩で10分程度
[参考サイト]https://www.wakamatsuen.net/