村上春樹著「風の歌を聴け」の風景(その3)

ガールフレンドたちや鼠のこと

「風の歌を聴け」では過去に付き合った3人のガールフレンドに触れられていますが最もページを割いている「三人目のガールフレンド」について印象的な場面をピックアップします。また、ジェイズバーでは「小指のない女の子」と再開。鼠の独特の趣向についても語られています。

三人目のガールフレンド

エピソード1

「私が大学に入ったのは天の啓示を受けるためよ」という少し変わったタイプ。付き合い始めた翌年の春休み大学の雑木林で自殺してしまいます。「僕」が持っている彼女の唯一の写真はなぜか14歳のときのもの。「ジーン・セバーグ」風に髪を刈り込み・・とあります。ジーン・セバーグは1950年代後半から活躍したアメリカの女優です。14の頃の彼女は下の写真のような美しい姿だったと想像できます。

エピソード2

彼女の死後半月後、ミシュレの「魔女」なる小説を読む「僕」の姿があります。「わたしの正義があまりにもあまねきため・・・(中略)・・・みずからくびれてしまったほどだ」という文章を引用しています。この小説は中世の魔女狩りについてキリスト教の発展などと関連付けて描かれたもの。彼女のいっていた「天の啓示」は得られたのでしょうか?

「小指のない女の子」再び

ジェイズバーで「小指のない女の子」と会った「僕」は彼女の家族のことや小指が無くなった原因などの身の上話に耳を傾けます。数日後、彼女の家にビーフシチューを食べに来ないかと誘われ2人の距離は縮まっていきます。ネタバレになるので詳細な記述は避けますが会話などで出てくる当時を象徴する画像をアップしてみます。

初代名犬ラッシー

好きだったテレビは「名犬ラッシー・・もちろん初代のね」と話す「僕」。日本ではアニメ化もされましたが「僕」が見たのは下にオープニング動画を引用させていただいたような実写版でした。「パル」というのが名犬ラッシー役の犬の名前。原作は1940年に発行された小説「名犬ラッシー/家路」でした。金持ちの家に売られたラッシーが元の飼い主の少年を慕い勇気と知恵で逃げ戻る感動的な物語です。

学生運動

学生生活について質問された「僕」はデモやストライキで機動隊に前歯を叩き折られた話をします。この物語の直前の1968年から1969年は全共闘運動大学紛争の真っ最中。日大や東大で大学当局への不満が爆発し全国に広がっていきました。下は東大周辺の全共闘時の様子です。このような時代「僕」はどのような紛争に巻きこまれたのでしょうか?

流れていた曲たち

食後にはレコードをかけてコーヒーを飲みながら聴く場面があります。まずはM・J・Q(モダン・ジャズ・カルテット)の曲の一つです。レコード店で働いているせいでしょうか?20歳前後の女性がにしては渋い選曲です。

次はマービン・ゲイの代表曲「What’s Going On」をどうぞ。1971年リリースなのでこの小説とは時代があいませんが雰囲気は把握できるかと思います。

旅行に出るといった彼女。帰ったら向こうから電話をするといって別れます。

相棒・鼠と風景

ジェイズバーで飲みすぎの鼠が気になった「僕」に、鼠から「女に会ってほしい」と依頼されます。次の日約束の時間に車でジェイズバーの前にいきますが・・・。ネタバレを避けるためにここで一旦ストップ。変わりに鼠についての風景をリストアップしてみます。

鼠の今の車

鼠のお金持ちの息子。ガレージには廃車にした(?)フィアット600の代わりにトライアンフTR3が停まっています。隣には父のベンツ。芦屋にあるいかにも豪邸のガレージが想像できます。

鼠の愛読書

スポーツ新聞とダイレクトメール以外の活字を読まなかった鼠ですが「僕」との付き合いの中で読書家になっていきます。ジェイズバーで「僕」に会った際、本からのいくつかの引用を披露します。「優れた知性とは対立する概念を同時に抱きながらその機能を充分は発揮できる」など。

ちなみに、こちらは村上氏も翻訳を手掛けたアメリカの作家「スコット・フィッツジェラルド」の「グレート・ギャツビー」の一文です。鼠が読んでいたのは下の写真のような洋書版だったもしれません。

鼠の好物

最後は鼠の好物「焼きたてホットケーキにコカ・コーラを1瓶注いだ」料理でお別れです。鼠曰く「この料理が優れている点は食事と飲み物が一体化していること」だそうです。一度お試しあれ。

旅行の情報

村上春樹ライブラリー(2021年完成予定)

この記事には旅行ネタが少ないため来年(2021年)完成予定の観光スポットをご紹介します。村上春樹氏の母校でもある早稲田大学に設立される予定の施設です。設計は隈研吾氏。国立競技場などのおしゃれで機能的なデザインが話題になる方です。村上春樹氏の小説の原稿や書簡、インタビュー記事などの他、数万枚のレコードコレクションも展示される予定とのこと。小説ファンが楽しめるスポットがまた一つ増えそうです。
[公式サイト]https://www.waseda.jp/culture/about/facilities/wihl/