村上春樹著「ダンスダンスダンス」の風景(その2)

今回は「僕」が函館で取材を終えて札幌の「いるかホテル」に到着するまでの風景を、寄り道をしながら進めていきます。

1983年の電車旅の風景を中心に

特急列車に乗車

仕事を終えた次の日、「僕」は札幌に向かう「昼前のちょうどいい時間」の電車に乗り込みます。ちなみに、小説の舞台となった1980年代の札幌・函館間には、「北斗」という特急列車などが走っていました。

1983年の時刻表によると、11時45分に函館を出発したとすると16時27分に札幌に到着することになります。所要時間5時間弱の小旅行ですね。下に引用させていただいたのは当時の特急の貴重な写真です。クリーム地に赤のラインが入った車両は、今となっては懐かしい雰囲気があります。

食堂車で一服

「朝食を抜かしたので十二時前に食堂車に行って昼食を食べた。ビールを飲み、オムレツを食べた」とあります。下には同じ北海道を運行していた「オホーツク」なる特急の食堂車の写真を引用させていただきました。

羊をめぐる冒険」にて「良いバーはうまいオムレツとサンドウィッチを出すものなんだ」と「僕」にいわせているなど、オムレツは村上春樹氏の小説にたびたび登場する食べ物。ここでは、下に引用させていただいた写真のような、美味しいオムレツを食べる「僕」をイメージしてみます。

ジャック・ロンドンの小説を読む

食事をしても札幌到着までにはまだ時間があります。「僕は三十分ほど眠り、函館の駅近くの書店で買ったジャック・ロンドンの小説を読んだ」とあります。

ジャック・ロンドンは1876年生まれ(~1916年)のアメリカの作家です。少年時代は貧困のために進学もままならず、牡蠣の養殖場を荒らし回る毎日でした。その後もアザラシ狩り船に搭乗して日本に立ち寄ったり、カナダのゴールドラッシュに参加したりと多彩な遍歴があります。「野生の叫び声」がヒットし、流行作家になりますが、最後はモルヒネで自殺、といった変化の多い人生を送りました。


「僕」が読んでいたのは、ジャック・ロンドンの自伝的小説(マーティン・エデン)。上に引用させていただいたように映画化もされています。「ジャック・ロンドンの波瀾万丈の生涯に比べれば、僕の人生なんて樫の木のてっぺんのほらで胡桃を枕にうとうとと春をまっているリスみたいに平穏そのものに見えた」とあります。下に引用させていただいた写真でその風景をイメージしてみます。

コーヒーハウスでの孤独感

札幌駅に到着した「僕」は「いるかホテル」に徒歩で向かうことにしました。途中で入ったコーヒー・ハウスではブランデーコーヒーを注文します。そこには「ビジネス・マンが二人で書類を広げて数字を検討し、大学生が何人かで集まって……ポリスの新しいLPやらについて話していた……」とあります。

以下に引用させていただいた動画の初期画面は、ポリスが1983年のにリリースしたヒットアルバム・シンクロニシティのLPの表紙です。「Every Breath You Take(見つめていたい)」などの名曲が入っているので、一度ご視聴ください。ここでは、同じアルバムに収録されている「Message In A Bottle(孤独のメッセージ)」の音楽に合わせて、まわりの雰囲気に激しい孤独感を覚える「僕」の姿を想像してみます。

二十六階建ての「いるかホテル」

「いるかホテルの場所を僕ははっきりと覚えていなかったので、それがすぐにみつかるかどうもいささか心配」でしたが、「それば二十六階建ての巨大なビルディングに変貌を遂げていた」とあります。以下に引用させていただいたのは、いるかホテルのモデル候補として有名なノボテル札幌(現プレミアホテル・中島公園札幌)の写真です。

地下1階・地上25階の現代的なホテルで、小説の記述ともよく合っていますね。五階建てで、途中階に羊の資料館があった旧いるかホテルとは全く異なる佇まいに、「僕は二十秒ばかりそこに立ちすくんで、口を半分開けて、そのホテルをただじっと見上げて」いました。

旧いるかホテルについて質問するも……

ホテルの中に入った僕は、「(旧いるかホテルと違って)新・いるかホテルは繁盛しているホテルだった」、「正直なところ、僕の好みのホテルとは言えなかった」との感想を抱きます。黒服のホテルマンに経緯を聞いてみますが、「以前のそのドルフィン・ホテルがございました土地を手前どもが買い上げまして、その跡に新しくホテルを建てた」とのこと。ホテル名は同じでも関連はなく、以前のオーナーがどうしているかは全く分からないといいます。

ちなみに黒服のホテルマンの笑顔には、グラデーションに「ナンバー1からナンバー25まで」の番号が振ってあり、「状況に応じて……使いわける」とあります。ここでは、ハンティング用のハーフコートにキース・へリングのバッジ、オーストリア陸軍の毛糸の帽子をかぶったヘビーデューティー過ぎる「僕」の服装に、中間的(な笑顔)から「三段階ほど下降した」笑顔を見せるホテルマンの姿をイメージしてみます。

今回は函館から札幌のいるかホテルまでの風景を、のんびりと追ってきました。次回からはいるかホテルやその周辺でのストーリーに焦点を当てていきたいと思います。

旅行の情報

特急北斗

特急・北斗は現在でも運行していて、函館・札幌の所要時間は1980年代の5時間→3時間50分前後に短縮されました。また、車両も下に引用させていただいたような近代的な姿になっていますが、残念ながら食堂車は廃止されています。

車内販売はありませんが、函館や札幌といった主要駅では海鮮を中心とした絶品のお弁当が準備されているので、事前に購入しておきましょう。

【住所】北海道函館市若松町12-11(函館駅)
【参考サイト】https://www.jrhokkaido.co.jp/train/tr003_01.html

プレミアホテル 中島公園 札幌

新・いるかホテルの候補になっている高級ホテルです。下に引用させていただいたように、窓の外には中島公園の自然が広がり、季節ごとのきれいな景色を見せてくれます。また、朝食が美味しいことでも評判のホテルです。ランチのみの利用も可能なので、札幌周辺にお出かけの際には立ち寄ってみてはいかがでしょうか。

【住所】北海道札幌市中央区南10条西6丁目1-21
【アクセス】地下鉄南北線・中島公園駅から徒歩約3分
【参考サイト】https://premier.premierhotel-group.com/nakajimaparksapporo/

中村キース・へリング美術館

「僕」がコートに着けていたキース・へリングの作品が気になった方は、山梨県にある「中村キース・ヘリング美術館」に足を運んでみてはいかがでしょう。今年(2022年)5月14日から2023年5月7日までの日程で、開館15周年記念展「混沌と希望」を開催中です。

バッジのデザインにも取り入れられた「イコンズ」なるシルクスクリーン作品だけでなく、新たな大型作品やアルミニウムにペイントを施したものなど多彩なアートを展示しています。また、下のような遊歩道もあるので、自然を満喫することもできるでしょう。

【住所】山梨県北杜市小淵沢町10249-7
【アクセス】JR小淵沢駅より車で約8分
【参考サイト】https://www.nakamura-haring.com/