内田百閒著「第一阿房列車」の風景(その2)

区間阿房列車

前回(その1)の特別阿房列車は東京・大阪間の大掛かりな1泊旅行でした。次に 百閒(ひゃっけん)先生が楽しんだのは静岡近辺までの少しライトな旅。前回通らなかった御殿場線経由の旅を楽しもうという趣向です。下の写真は現在の御殿場線から見た綺麗な富士山の風景。先生もこのような景色を見ながら旅を楽しんだと思われます。

旅の序盤

第三二九列車なる三等車を連列した汽車に乗りこんだ先生と山系君。友人のお見送りを受けながら出発します。窓際には山系君が購入したお茶の土瓶が2つ置かれているという記述があります。当時は下の写真のような温かいお茶が土瓶ごと販売されていました。その後「ポリ茶瓶」の時代を経て今は缶やペットボトルになっています。ここでは「飲みたくないけれども、飲んでみたがうまくなかった」という先生のやや不機嫌な表情を想像することにします。

沼津での乗り遅れ

国府津(こうず)駅で乗り換え予定だった先生一行ですが東京からの汽車は遅れて到着。「列車は遅れてついたけど(乗り換え予定の列車は)待っていないので急いで」と駅員から言われた先生は納得がいかず地下道などをわざとゆっくりと移動。目の前で出発されてしまいます。下は最近の国府津駅の地下道の写真。130周年とのことなので百閒先生の時代には既に存在した階段。山系君の「走りましょう」という提案に耳を貸さずむっとした顔で歩いている先生の顔が目に浮かびます。

鉄道唱歌を口ずさみながら

箱根第2トンネル

2時間待ちをした先生一行は山系君が調達したサンドイッチで腹ごしらえをして御殿場線に乗り継ぎます。路線内の主要駅「山北駅」の周辺では鉄道唱歌が先生の頭の中で鳴り響きます。「出でてはくぐるトンネルの」なる景色は今でも下のような箱根第2トンネルなどで見ることができます。

第二酒匂川(さかわがわ)橋梁

また「今も忘れぬ鉄橋の、下ゆく水の面白さ」なる風景は下の写真のような第二酒匂川(さかわがわ)橋梁などで見ることができます。下のように明治時代に造られたレンガ建築も見どころ。川も透きとおり先生の汽車旅当時の面影を感じることができます。

水口屋に宿泊(1泊目)

一行は興津駅の近くの宿に到着。宿泊したのは「水口屋」なる立派な老舗宿でした。山系君とともに旅館の仲居さんたちが感心するほど痛飲。朝起きると清見潟(きよみがた)なる興津の美しい海岸が望めたとの記述があります。当時美しい海岸だったところは現在は埋め立てられ清見潟公園という名称になっています。ここでは水口屋(下写真)から庭先に出て眠そうな顔で海の景色を見る先生と山系君の顔を想像してみます。

由比(ゆい)の街を散策

もう1泊して帰ろうということになった先生一行は由比駅の近くに宿泊することになりました。昼のあいた時間で宿場のあった旧東海道を歩きます。その中で「夏みかんがぼんやりした燈火(あかり)をともしたように点々と」していたり「さくらえびを茹でるにおいがする」などの場面があります。今でも由比はさくらえびの街として有名。みかんなどを栽培する果樹園も数多くあります。下の写真は由比宿の近年の写真です。昭和を思わせる建物が多く残り先生が散策した当時の景色を想像するこができます。

例によって戻りの行程は帰らなければならないという「用事」ができるの意気があがりません。静岡駅から特急に乗り込み、由比あたりから食堂車で宴会を開始。途中で日が暮れて気づいたら横浜が目前になっていました。下に引用させていただいた写真は昭和25年のJR横浜駅。当時の横浜駅は現在の場所ではなく今のJR桜木町駅の場所にありました。先生が通過した時間帯は夕方なので見え方は違いますがこのような景色の脇をほろ酔い状態で電車に揺られていく先生と山系君の姿を今回のラストシーンとします。

旅行の情報

水口屋ギャラリー

水口屋は東海道の興津宿の脇本陣としても有名でした。明治以降は皇族や文人、政治家などが利用する高級旅館として利用されます。昭和60年に閉館しますが一部は今でも「水口屋ギャラリー」として公開中。水口屋や興津の歴史を知ることができます。
[住所]静岡市清水区興津本町36
[電話番号]054-369-6093
[アクセス]JR興津駅からバスを利用。「興津不動前」で下車
[参考サイト]https://www.suzuyo.co.jp/suzuyo/verkehr/annex/index.html

由比本陣公園

江戸時代に栄えた由比本陣の跡にある公園です。敷地内には「東海道由比宿交流館」があり観光の拠点としても人気。周辺の街歩きでは江戸から明治、昭和などのタイムトリップを楽しむことができます。また「御幸亭(下の写真)」は明治天皇が休まれた建物を復元したもの。優雅な気分に浸ることができます。
[住所]静岡市清水区由比297-1
[電話番号]054-375-5166
[アクセス]JR由比駅から徒歩約25分
[参考サイト]http://yuihonjin.sakura.ne.jp/

ゆい桜えび館

先生たちも堪能したであろう桜えび料理が美味しいお店のご紹介です。こちらのお店は桜えびを中心にしたお土産屋さんとしても有名。食事では「生桜海老&揚げ桜海老丼」などが看板メニューになっています。プリプリした生桜海老のほかイワシの削り節がかけ放題なのも魅力。この地方ならでは美味しいグルメをご堪能ください。
[住所]静岡県静岡市清水区由比672-1
[電話番号]054-375-2448
[アクセス] JR蒲原駅から徒歩約20分
[参考サイト]https://www.kakusa.co.jp/