内田百閒著「第一阿房列車」の風景(その7最終回)

奥羽本線阿房列車(後章)

大荒沢駅にて

横手駅に到着した先生たちは黒沢尻駅(現在の北上駅)との間を走っていた横黒線に乗り込みます。当初は日帰りの往復電車旅を楽しむ予定でしたが雨がひどいこともあり、途中駅で引き返すことにします。選んだのは「大荒沢駅」。雨でぬれて鮮やかになった紅葉を眺めていると到着します。下の写真は大荒沢駅周辺の昭和時代の貴重な写真です。先生たちは駅長事務室の火鉢に当たりながら戻りの列車を待つことにします。駅舎は下写真中央の左側でしょうか?ここでは、駅員が入れてくれたお茶を山系君と先生が飲んでいる姿を想像してみます。

横手に宿泊

小鯛の塩焼き

横手の大きな旅館に到着した先生一行は例によって宴会を開始。今日のお相手は横手駅の駅長さんです。先生は日本海で揚がる小鯛の塩焼きが気に入りお酒が進みます。すっかりお酒がまわってご機嫌になった先生は旅館の主人の依頼で書を披露します。先生が食べていたのは下の写真のような肉厚な小鯛だったかもしれません。

山形で宿泊

横手から山形に移動した一行は「豊臣時代の豪傑のような大きな宿」につきます。20年ほど前に閉館した「旅館・後藤又兵衛」だったと思われます。この旅館では当時としては珍しくたくさんのお土産を扱っていました。

のし梅

先ず先生が購入したのは女中さんからすすめられたのし梅。梅をすり潰し薄い寒天に練りこんだスイーツの一種。お茶受けとしても喜ばれるお土産です。

なめこの缶詰

次に挙げられているのは山形名産のなめこの缶詰。なめこは美肌作用があるとして最近でも注目の食材です。調べてみると現在でもたくさんの商品が販売されていることがわかります。当時は高級旅館で扱う貴重なものだったのかもしれません。

こけし

山系君は山形名物のこけしを大量購入。役所の同僚に分けるといっていました。後日譚になりますがお土産は受け取ってもらえず山系君の家に残ることに!先生曰く「ご希望の方はヒマラヤ山まで申し出でられる可し」。この作品は昭和27年3月に小説新潮に掲載されたものです。山系君こと平山三郎氏に申し出でた人はいたかどうか気になるところです。

この投稿をInstagramで見る

@vonqoがシェアした投稿

山寺駅にて

山形を出て仙台方面に向かった一行は山寺駅で長く停車します。当時の仙山線は完全に電化されておらず、山寺駅から作並駅の間のみ電気機関車。その両側の山形駅から山寺駅、作並駅から仙台駅間は蒸気機関車が客車を引っ張っていました。そのため山寺駅や作並駅では付け替え作業のため停車が長かったいうことです。下の写真は昭和の雰囲気が残る山寺駅のホーム。左の列車から百閒先生が出てきそうな景色です。

面白山隧道

列車が次に通過したのは面白山隧道。今は仙山トンネルといわれています。当時は日本で3番目に長いトンネルとして知られていました。乗っている列車が鈍行列車のためいつまでたっても車窓の景色が見えないと退屈する先生の姿がありました。

面白山の紅葉

隧道を過ぎるとぱっと明るくなり周辺の景色が一変。「燃え立った紅葉の色が一団の炎になってその上を渡る汽車を追いかけて来た」という絶景を楽しみます。下の写真は面白山の「紅葉川渓谷」という紅葉名所付近のもの。列車の窓から満足そうに景色を眺める先生たちの姿を想像してみます。

松島に宿泊

仙台駅に到着した一行は山系君の知り合いに案内され松島海岸駅に向かいます。宿泊先は「伊藤博文公の扁額が掲げてある」との記述から伊藤公が命名した「白鴎楼」なる高級旅館だったと思われますがこちらも今は残っていません。ここでは昭和初期に建てられた松島海岸駅の風景を見ながら、長旅で少し疲れた先生一行が出てくる姿を想像することにします。

志おがまを購入

松島では島巡りの観光。屋形の付いたモーター船で釜石に向かいます。雨ふりの松島は色が美しく綺麗との感想を抱く先生ですが寝不足のせいもありあまりテンションが上がりません。むしろ積極的だったのはお土産のお菓子を買う場面です。雨に濡れながらも釜石名物の白雪糕(はくせつこう)のお店に向かいます。下の写真は釜石発祥の「志おがま」です。落雁のような砂糖菓子ですがトッピングされた藻塩が甘さを引き立てます。現在でも人気のあるスイーツです。

上野に到着

一行は仙台駅から急行にのって上野に向かいます。当時仙台・上野間は約7時間。出発から2時間半くらいたった郡山から食堂車にて杯を傾け始めます。すっかり出来上がった2人が食堂車から戻ったころ上野駅に到着します。この記事の最後の風景は昭和時代の上野駅の風景。少し足をふらつかせながら山系君とともに歩く先生の姿を探してみてください。

内田百閒氏について

明治22年岡山県生まれ。夏目漱石の師事した小説・随筆家です。東大卒業後に陸軍士官学校や法政大学などのドイツ語教授を務めたのち文筆活動を開始。「阿房列車」はその3まで続く人気シリーズとなっています。他にも愛猫との生活とつづった「ノラや」など今でも多くの作品を入手することが可能です。

旅行の情報

面白山紅葉川

仙山線の車窓から見えた紅葉スポットです。今でも仙山線が通っていて当時同様の絶景を見ることができます。吊り橋などがある遊歩道が整備されていて、渓谷や滝と紅葉とのコントラストを楽しむことができます。
[住所]山形市山寺面白山
[電話番号]023-641-1212
[アクセス]仙山線・面白山高原駅から徒歩2分
[参考サイト]http://yamagatakanko.com/spotdetail/?data_id=261

松島

先生一行が釜石までモーター船に乗った際に観光したところです。海岸周辺には五大堂などの美しい建物を散策できるほか、観光船を使えば下に引用させていただいたような美しい島々間近で見ることができます。
[住所]宮城県宮城郡松島町
[電話番号] 022-354-2618(松島観光協会)
[アクセス]JR松島海岸駅から車を利用
[参考サイト]https://www.matsushima-kanko.com/