井上靖著「夏草冬濤」の風景(その1)
魅力的な少年たちとの出会い
中学校に進学した洪作
「夏草冬濤(なつぐさふゆなみ)」は井上靖氏の自伝的小説です。尋常小学校時代を描いた「しろばんば」の続編で主に旧制中学時代のストーリーになっています。「しろばんば」では小学校の最終学年を浜松の父母のもとで過ごすために故郷の湯ヶ島から旅立つところで終了しています。その後、洪作は浜松中学に合格しますが父母が台北(たいぺい)に転勤した関係で沼津中学に転校。伯母である「むめ」の家から通学することになります。下の写真は沼津東高校にある旧制沼津中学の正門です。この門を通って校舎に向かう旧制中学三年・10代半ばの洪作の姿をイメージすることから始めることにします。
水泳の講習会
この小説の最初の場面は沼津中学で夏の恒例となっている水泳の講習会です。毎年、沼津御用邸の近くの静浦の海にて実施されていたとのこと。地元の狩野川で「ナンガレ」なる流れに身を任せる遊びに慣れていた洪作ですが深い海となると恐怖感が先立ちうまく泳ぐことができません。下には現在の静浦周辺の海水浴場の写真を引用させていただきました。当時は中学ごとに水泳場が決まっていて区切りの旗が立っていたとのこと。沼津中の境は白い旗でした。下の風景に白い旗と深い海にとまどう洪作の姿を重ね合わせてみます。
飛込台
なかなか上達しない洪作に対し上級生がしびれをきらします。当時、水泳場には下の写真のような飛込台があるのが一般的だったとのこと。洪作は飛込台から落とされ一緒に岸まで泳ぐことを強要されます。恐怖のため飛込台にしがみつき一時的に難を逃れますが、突然の夕立のため海岸には誰もいなくなります。ここでは飛込台の上に一人残る洪作が誰もいない岸に向かって大きな声で助けを呼ぶ姿を想像してみます。
少年たちに助けられる
しばらくすると岸の方から三人の上級生たちがボートに乗ってやってきます。一人は「若サマハ、ココニイラシッタ」、もう一人は「ドウレ、デハ、オ救ケ申ソウカ」などと奇妙な口調で話したかと思えば見事なフォームで飛び込んだり泳いだりします。一人は洪作も見たことのある金枝(かなえ)というクラスの級長をしている四年生でした。頭髪と目の色が金色に光りハーフのような目立つ顔とあります。下は美しいフォームで遠泳の練習をする人達の写真。金枝たちのこのような姿に「自分などの知らないきらきらしたもの」を感じた洪作。彼らをあこがれを抱きながら見ている姿をイメージしてみます。
伯母の家
洪作が下宿させてもらっている伯母の家は三島大社の門前にあります。毎朝六時に起きて沼津までの5kmの道のりを1時間かけて歩いて登校します。朝食を味噌汁と漬物を食べ、表通りに面した銀行の前で同級性と待ち合わせするのが習慣でした。下に引用させていただいたのは三島大社の鳥居の写真。朝の眠さに目をこすりながらこの鳥居を眺めながら伯母の家を後にする洪作を想像してみます。
不良との噂がある金枝たちに魅かれていく洪作。同級生たちとのストーリーとともに風景を並べていきます。
旅行の情報
三嶋大社
洪作が下宿する伯母の家の近くにある神社として登場します。1300年以上の歴史を持つ古刹で鎌倉幕府を開いた源頼朝が源氏再興を祈願したことでも有名です。拝殿にある神話などを描いた彫刻も必見。境内には神鹿園なる鹿が飼育されるスポットもあり参拝以外の楽しみもあります。
【住所】静岡県三島市大宮町2-1-5
【電話】055-975-0172
【アクセス】三島駅から徒歩約15分
【参考サイト】http://www.mishimataisha.or.jp/
島郷(とうごう)海水浴場
洪作が水泳訓練をした沼津御用邸付近の海水浴場です。遠浅の海岸は子供でも安心して泳がせられると評判です。飛込台はありませんが美しい富士山の景色は洪作当時と変わっていないのではないでしょうか?
【住所】静岡県沼津市下香貫島郷
【アクセス】沼津駅南口からバスで15分
【参考サイト】https://numazukanko.jp/spot/10002