井上靖著「夏草冬濤」の風景(その2)
かばんの紛失事件
2学期の始まり
魅力的な上級生と出会った洪作ですがまた普段の生活に戻っていきます。新学期が始まり三島の伯母の家からカバンを持って出かけます。近くに住む増田と小林と近くの銀行前で合流。5kmの通学路の中間にあるのが智方神社で洪作たちはいつもここで休憩しました。下で引用させていただいたのは今もある智方神社の境内の様子。洪作たちが通学したころの雰囲気を残すのどかな雰囲気です。ここでは学生服を着た3人が夏休みの出来事を話している姿を想像すればよいでしょうか?
かばんを隠して学校に向かったが・・
神社を通過する学生たちを見ているとカバンを持つ生徒が自分以外いないことに気づきます。今日は時間割をうつすだけなのでカバンは不要と小林からも指摘された洪作は「俺、このカバンをどこかに置いて行くぞ」といいます。そして小林の提案に従い大きな楢(なら)の木の根元にカバンを押し込みます。身軽になって気分よく登校した洪作ですが下校時に見るとカバンがなくなっていました。
カバンと教科書を紛失
もちろんカバンだけでなく教科書も入っていました。下に引用させていただいたのは明治・大正期の教科書とのこと。デザインや文字に特徴がありますね。神社中探してもカバンを見つけられず「教科書を揃えたくても、教科書は集まらないだろう。日本中どこを探しても、一冊もないかもしれぬ。自分は三年という学年を教科書なしでやるのだ」と思い詰める洪作の姿がありました。
教科書がない学校生活
洪作が教科書をなくした事件はすぐに広まり同級生たちは同情的な態度を示します。今まで目立つことがなかった洪作はこの事件で初めて自分が特別席にいるような気分になります。また、小林が親戚から教科書を借りてくれるなど2日以降は徐々に状況が好転します。
下には小豆島の「二十四の瞳映画村」内にある教室の写真を引用させていただきました。このような教室で机上に(教科書とは)別の物を置いたりしてその場をしのごうとする洪作と激励や興味本位など様々な視線をおくる同級性たちの姿をイメージしてみます。
かばん紛失のストーリーはネタバレを避けるためこの辺で止めておきます。詳細は本文でお楽しみください。以下ではこの小説にでてくるいくつかの料理をリストアップし当時の食文化に触れることにします。
洪作の朝食
朝食ついては小説の冒頭近くに述べられています。「朝食は味噌汁と漬けものである。生卵がつく日とつかない日があった」とのこと。下に引用させていただいたようなシンプルな朝食をイメージできます。味噌汁の具材はネギと豆腐、じゃがいもなどが日替わりでトッピングされたようです。
洪作の苦手な食べ物
小説内には洪作が豆腐嫌いとの記述があります。「あんな白くてやわらかいだけの物を、どうして伯母は好むのだろうか」と思う洪作。小説「しろばんば」でも登場した祖父・文太が豆腐好きというのを例にだして「夏は手拭いで赤くなった鼻の頭を拭き拭きしながら、ヒヤヤッコで酒を飲む」とあります。下に引用させていただいた写真のような風景でしょうか?
また「冬は湯豆腐だ。毎晩、湯豆腐をつっつきながら酒を飲む。年齢をとると、みんな豆腐が好きになる。どういうわけだろう」とも。ネット情報によると井上靖氏にはひいきにした湯豆腐専門店もあったようです。「どういうわけだろう」という言葉は後に豆腐好きになったご自分へ向けられたものかもしれません。美味しそうなヒヤヤッコや湯豆腐の写真を見ているとお腹が急に減るのは私だけではないのでは?
増田の親戚の家でのご馳走
成績不振のため学校から親が呼び出されると考えた増田は 、家に帰らず洪作を誘って親戚の小母さんの家に遊びに行きます。その時の夕ご飯のメインは出前の親子丼でした。下には美味しそうな親子丼の写真を引用させていただきました。
他にも鮭の缶詰や玉子焼き、洪作の好物である福神漬けなどが並ぶ豪勢な食卓。料理の品数はともかく、食べ物メニューは現在と大きく違わないように思えます。
美味しそうな料理に少し脱線してしまいましたが、次回からは再びストーリーに沿って景色をイメージしていきたいと思います。
旅行の情報
智方(ちかた)神社
洪作がカバンを隠した神社として登場します。大塔宮護良(もりよし)親王を主神とする古刹でご神木のクスノキは樹齢700年ともいわれています。一説にはこのクスノキは処刑された護良親王の御首を埋葬した目印に植えたとも。今では周辺が緑におおわれパワースポットとしても人気のスポットです。観光がてら洪作がカバンを隠した木を探してみてはいかがでしょうか?
【住所】静岡県駿東郡清水町長沢60
【電話】055-972-6678
【アクセス】三島駅からバスを利用
【参考サイト】http://www.inarijinja.com/kenmu/tikata/index.htm