井上靖著「北の海」の風景(その6)

金沢での生活(その2)

弱い奴でも強い奴に勝てる柔道

次の日から四高の生徒に混じって練習を開始。初日から南という一年で最も強い長身の生徒と対戦させられます。「相手の大きな体が動いたかと思うと、洪作は自分の体がふいに宙に舞い上がるのをかんじた」とあるとおり、いきなり内股で一本、続けて左の内股で二本目をとられます。あっけなく敗れた洪作にマネージャーの権藤はこう言います。「君は負けたが、相手が君よりも強かったから仕方がない。・・・・・君も来年四高に入ったら弱い奴でも強い奴に勝てる柔道をやるんだな」。下に引用させていただいたのは内股が決まる瞬間の動画です。青い服のかたを南に見立てて洪作(白い服のかた)が1・2分の間に2回続けて投げられる光景を想像してみます。

大天井

その日の夜に杉戸や鳶たちが洪作の歓迎会をしてくれることになります。特別ゲストは大天井、以前洪作に手紙をくれた豪傑です。集合場所はたばこ屋の2階にある大天井の下宿先になりました。杉戸や洪作が訪ねると大天井は老人と碁を打っています。その姿は「南ほど背は高くないが、肩幅はむしろ広いくらいで、堂々たる体格を持っている。顔全体が大きく、従って目も鼻も口も大きい。・・どう見ても立派な社会人である」と描かれています。 下に引用させていただいたのは小田原にある歴史のあるたばこ屋さんです。 こちらの2階で碁石をがちゃがちゃいわせながら「勝負は明日に持ち越しですな」というのんきな受験生・大天井に対し、老人が「明日は私の家に来ませんか。四、五人集めておきます」と返す姿をイメージしてみます。

歓迎会

鳶が竹の皮に包んだ牛肉を調達、杉戸が野菜と酒を買ってきます。今日のメニューは牛鍋。縁側に七輪を出して火おこしから始めます。下に引用させていただいたのは有名店の美味しそうな牛鍋の写真です。ここでは大天井など4名の柔道部の若者たちが肉を投入しては奪い合いをしながら食べる風景を思い描きます。

権藤

マネージャーの権藤は杉戸にいわせると「あの人は・・・一番弱いけれど、柔道は一番よく知っていますよ。実力のない理論家です」とのことでした。「みんなに嫌われるが・・名マネージャーでしょうね」とも。また、哲学や宗教の本をたくさん読んでいるのも柔道部員にしてはユニークなところです。洪作の歓迎会の次の日、休みにもかかわらず道場に来た権藤が座禅をしているのを目にします。「道場の内部には夕闇が立ち込めていた。薄暗い中に、権藤の姿が置物か何かのように浮き上がって見える」という記述があります。下に引用させていただいたのは再び無声堂の写真です。右側の畳の柔道場のどこかに静かに座る権藤の姿を置いてみます。

再び大天井

柔道の練習後、繁華街の香林坊近くを歩いていると杉戸が大天井を見つけます。「白い絣の着物に小倉の袴をはき、着物の片方の袖をまくって、大きな団扇で胸に風をいれながら、ゆったりと足を運んでくる。洪作はそうした大天井の姿を見た瞬間、大天井が天狗に見えた」とあります。下に引用させていただいたのは昭和初期の香林坊周辺の写真。結構な都会ですね。この中に天狗のような大天井や洪作たちの姿を思い描いてみます。

参考書選び

大天井は親からの送金があったので参考書を購入するため街にでてきたとのこと。自分は書店に入らず杉戸に参考書選びを依頼します。(杉戸が)蓮実からもらった参考書もあるでしょうといいますが「だめだ、あれは古い。あれでやったから落ちたんだ。もっと新しくて効果的のがあるだろう」と勝手なことをいいます。下に引用させていただいたのは大正中期の金沢市内の書店の写真です。少し不服そうな顔をしながら参考書選びをしている杉戸の姿を探してみます。

次の日洪作たちは道場がお休み。大天井もさそって日本海に遊びに出かけることになります。この小説で最も印象的な場面の一つのためネタバレを避けながら風景などのご紹介していきます。

旅行の情報

鈴木大拙館

今回は権藤の座禅の場面にちなんでこちらの施設をご紹介します。金沢出身の有名な仏教哲学者・鈴木大拙氏の思想を伝える施設です。代表的な「水鏡の庭」は鏡のように水を張った池に定期的に波紋が発生するしかけ。眺めているだけでも心が静まるとのことです。座ってゆったりとできる「思索空間」や「内部回廊」などの不思議な空間があり自分を見つめなおすことができます。下に引用させていただいたのは「思索空間」からの外の景色の写真です。こちらでも「薄暗い中に、権藤の姿が置物か何かのように浮き上がって見えている」という場面がイメージできそうです。
【住所】石川県金沢市本多町3-4-20
【電話】076-221-8011
【アクセス】金沢駅からバスを利用。本多町で下車
【参考サイト】https://www.kanazawa-museum.jp/daisetz/