内田百閒著「第三阿房列車」の風景(その2)
房総花眼鏡(房総阿房列車)
房総花眼鏡とは
百閒先生は「今度は向きを変えて、手近の房総へ出かけよう」と考えます。近場ですがあまり行ったことがなく「手前の市川、船橋までしか知らないので、その先の旅程を考えるのは大変新鮮な興奮を覚える」とあります。先生が計画したのは両国駅を出発し銚子駅駅(1泊目)と千葉駅(2泊目)、安房鴨駅(3泊目)、稲毛駅(4泊目)の近くで宿泊するスケジュール。路線からは少し離れるところもありますが大まかには下のような位置関係となります。確かに先生が「東京湾沿いの内房州と太平洋岸の外房州とで・・楕円が2つできて、千葉を鼻柱とした鼻眼鏡の様な旅行である」というような形をしていますね。
東京駅の名誉駅長
きたない木造車が多いのを目にした先生は鉄道80周年の行事で東京駅の名誉駅長になった時のエピソードを紹介します。「駅長室に入って行くと、新聞社や放送局の諸君が待ち受けていて、インタビューをするという」。インタビュアーの一人は「東海道線・・の様な幹線の列車は、設備も良くサービスも行き届いている。然るに一たび田舎の岐線となると、それは丸でひどいものです。同じ国鉄でありながら、こんな不公平な事ってないでしょう。・・・どう思いますか」と質問します。それに対し「表通が立派で、裏通はそう行かない。・・・いいも悪いもないじゃありませんか」と回答。下に引用させていただいたのは名誉駅長を務めた際の写真です。インタビューの時もこのような表情をしていたかもしれません。
銚子駅に到着
両国駅を出発して「銚子まで170キロ余。2時間45分でお泊りとなる」いつもに比べて短い道のりです。風邪気味のヒマラヤ山系君がキャラメルや稲荷鮨、サンドイッチなどを平らげるのを見ながらあっという間に銚子駅に到着します。「本屋全体の感じが倉庫か格納庫の様で、少し薄暗く、よその駅とは丸で工合が違う」とあります。下に引用させていただいたのは先生の頃からの駅舎の写真です(~2016年)。実際に当時の航空基地にあった飛行機の格納庫を再利用したものとされています。
吉田屋旅館(現・鴨川グランドホテル)に宿泊
キャラメルなどで元気になった山系君はその夜、雨男の本領を発揮します。2日目は千葉駅の街中の旅館に宿泊。午前2時過ぎまで痛飲します。3日目に向かったのは鴨川。宿泊したのは「陛下の行宮(あんぐう)になったという宿屋」でした。下に引用させていただいたのは江戸時代創業の「吉田屋旅館」の写真。先生が宿泊したときはこのような姿でした(昭和40年に鴨川グランドホテルとしてリニューアルされています)。「通された座敷の縁側の欄干から、すぐ下の太平洋の波打ち際を眺める」とあります。ここでは、どこかの部屋の窓際で海を覗きこむ先生の姿を想像してみます。
海気館では・・・・
4日目・最終日は千葉駅から車で稲毛の旅館に向かいます。「島崎藤村、徳田秋声、上司小剣なぞが来て、小説を書いた家だそうである」と記述されています。先生は「中が大変ざわざわしている。方々の座敷に酔っ払いがいて、通された部屋の障子が破れている。・・・・」などお気に召さない様子。このシリーズでも例を見ない思い切った行動にでます。詳細は小説本文にてお楽しみください。
旅行の情報
犬吠埼灯台
百閒先生が犬吠埼で宿泊した場面で以下のような文章があります。「暗い海に向かった左手の出鼻で光る燈台の明かりを見ながら、外の所の景色を連想した」。明治7年にイギリス人技師につくられた灯台でレンガつくりの建物です。真っ白の優美な姿が人気で最上階からは太平洋の雄大な景色を展望できます。隣には資料展示館もあり灯台の歴史やしくみについてわかりやく説明。ちなみにこの日は夜には雨が上がり「白いまん円い突きが浪の上にきらきら光りだし」ます。先生が見たのは下に引用させていただいたような絶景だったかもしれません。
【住所】千葉県銚子市犬吠埼
【電話】0479-25-8239
【アクセス】銚子電鉄銚子駅から徒歩で約10分
【参考サイト】https://www.tokokai.org/tourlight/tourlight03/
鴨川グランドホテル
百閒先生が窓から波の姿を飽きずに眺めていた旧吉田屋旅館をリニューアルしたリゾートホテルです。2018年には改修を加え更におしゃれな雰囲気になっています。建物は違いますが全室オーシャンビュー。下に引用させていただいたような太平洋の絶景を漫喫できます。周辺には鴨川シーワールドや鯛の浦などの人気観光スポットも満載です。
【住所】千葉県鴨川市広場820
【電話】04-7092-2111
【アクセス】JR安房鴨川駅から徒歩で約10分
【参考サイト】https://www.kgh.ne.jp/04/
旧神谷伝兵衛稲毛別荘
最終日に宿泊した「海気館」は稲毛の浜辺にありました。明治21年にオープンした稲毛海水浴場での病気療養施設として開業。数年後にはリゾート旅館として営業を始めました。現在、周辺の海は埋め立てられ松林などがかすかに当時の面影を残しています。周辺を散策するなら徒歩数分のところにある「旧神谷伝兵衛稲毛別荘」もおすすめ。大正7年築の日本のワイン王・神谷伝兵衛の別荘だったところです。百閒先生も通りがかったかもしれない観光地。内部の一般公開もしていて当時の実業家の暮らしを垣間見ることができます。
【住所】千葉県銚子市犬吠埼
【電話】0479-25-8239
【アクセス】銚子電鉄銚子駅から徒歩で約10分
【参考サイト】https://www.tokokai.org/tourlight/tourlight03/