内田百閒著「第三阿房列車」の風景(その3)

四国阿房列車

「はと」に乗車

百閒先生とヒマラヤ山系君は今度は四国を巡る旅に出ます。乗り込む列車は特急はと。文中でも「一番好きなはとに揺られて、申し分のない」列車と述べています。下に引用させていただいたのは当時の「はと」の雄姿です。この列車の窓から「海が格別に綺麗で、沖の方まですがすがしい色を湛えている」とある由井の海岸を眺める先生の姿をイメージしてみます。

関西汽船で高知へ

経由地の大阪に着いたころから先生は体調の不調を感じ始めます。「酒のにおいが鼻について飲めない。麦酒も飲みたくない」という異常な状態。予定していた動物園観光もあきらめそのまま海路で高知に向かいます。乗り込んだのは関西汽船の須磨丸(すままる)なる客船。 下(左上)に引用させていただいたような豪華な姿でした。 当日は波が高く「紀淡海峡と思われる辺りと、明け方近くの室戸岬では、大変なピッチングとローリングで、寝ていて何かにつかまらなくてはならない位だった」とあります。 ここでは客室で苦しそうにうずくまる先生の姿を思い描きます。

せっかくの料理やお酒が進まない!

高知では少し元気を取り戻し桂浜やはりまや橋などを観光します。夜にはお客さんを迎えて晩餐。下に引用させていただいたような高知名物「さわち料理」が提供されました。「高知のさわちで有名な鯛のいけづくりも出たが、私は何も欲しくなかった」とあります。さらに「昨夜のサロンではまだ飲めたけど、今日はお酒も飲みたくない」という状況。お客さんの相手を山系君にまかせ先に寝てしまいます。

鳴門でうずしお鑑賞

徳島・鳴門に到着した先生は名物だという鳴門のうずしおを観光に行きます。当時は現在のように瀬戸大橋などの手軽な観光スポットはなく船で近くまでいくのが定番でした。「宿のモーターボートは屋形になっていて、硝子窓がはまっているから風が当たる心配はない」とあります。先生が観光したのは旧暦3月14日、現在の4月初旬なので鳴門名物「春の大潮」が見られるシーズンでした。「潮が高く大きな渦が巻いて、その傍らを私共の船が通るのがこわかった」と記しています。下に引用させていただいたのは戦前の鳴門海峡の写真です。奥に見える船にスリルを味わう先生たちの姿をイメージしてみます。

フェリーからの夜景

鳴門大橋がなかった当時は四国⇔近畿の主要交通で多くの客船が運行していました。先生は徳島・小松崎港から大阪行きのフェリーに乗船します。船窓から淡路島付近の夜の景色を眺め「暗い山の上に薄明かるい空がひろがり、ぼんやりした春月がかかっている」と描写します。 下に引用させていただいたのは昭和時代のフェリーの広告写真です。 ここではこの船の中で夜中に高熱に苦しむ先生と氷の手拭いで懸命に看病する山系君の姿をイメージしてみます。ますます風邪がひどくなる先生。結末は小説本文にてお楽しみください。

観光の情報

天王寺動物園

四国に渡る前、大阪で百閒先生が訪問したいと考えていた大阪最大の動物園です。「ライオンも猿も私を待ってはいない」とありますが他にもたくさんの動物が飼育されています。特にアフリカをイメージしたゾーンにはキリンなどの草食動物とライオンなどの肉食動物が近くで生活し本物のサバンナのような雰囲気を楽しめます。また、キリンやゾウ、コアラ、ホッキョクグマなども揃い先生の時代よりも動物の種類も豊富です。下に引用させていただいたようなかわいい姿が見られることも!売店やレストランもあり1日中遊べます。
【住所】大阪府大阪市天王寺区茶臼山町1-108
【電話】06-6771-8401
【アクセス】大阪メトロ動物園前駅から徒歩約5分
【参考サイト】https://www.city.osaka.lg.jp/contents/wdu170/tennojizoo/

皿鉢料理(さわちりょうり)

高知滞在中に先生が食べた地元グルメ。大きな有田焼や九谷焼の皿に刺身やお寿司、揚げ物、煮物などを豪華に持ったおもてなし料理です。残念ながら先生は熱のためあまり食ベられませんでしが、高知市内では今でも多くのお店で提供されています。中でも有名なのが土佐料理・司(つかさ)。創業100年以上になる老舗店です。鰹のタタキはもちろん「土佐珍味どろめ」なる生シラスや高知独特のさつま揚げ・土佐天などが入った皿鉢料理が人気。酔鯨や船中八策などの人気の日本酒銘柄も揃っています。
【住所】高知県高知市はりまや町1-2-15
【電話】050-5868-5201
【アクセス】はりまや橋駅から徒歩約1分
【参考サイト】https://kazuoh.com/

鳴門の渦

5日目に少し体が軽くなった先生が見に行った名所です。うず潮とは海峡が急激に狭くなっていることが原因で起きる波の自然現象。下に引用させていただいた写真のような巨大な渦ができることもあります。今では鳴門大橋ができ「渦の道」なる散策路から見下ろして観光できますが、当時は大橋もなく観測船が唯一の観光手段でした。先生と同じく船で体感したい方には「うずしおクルーズ」などがおすすめです。大型船なので揺れにくく酔いやすい方でも安心。ここでしか味わえないスリルを感じてみてください。
【住所】徳島県鳴門市鳴門町土佐泊浦字福池65-63
【電話】088-687-0613
【アクセス】JR鳴門駅からバスに乗り換え、亀浦口で下車
【参考サイト】https://www.uzushio-kisen.com/