宮本輝著「花の回廊」の風景(その5)

大駐車場の営業計画は前倒し

女学校が火事に!

熊吾たちは昭和33年の4月に駐車場のオープンを予定していましたが、火事により女学校の移転が早まったため、1か月の前倒しをすることになりました。駐車場(株式会社シンエー・モータープール)の社長になる柳田元雄と、焼け残った講堂などを見て回り作戦を練ります。

熊吾が残そうと考えていた講堂以外の大部分が火事で焼かれてしまったため、解体業者が不要になったのは、不幸中の幸いでした。校舎を一通り見た後で、柳田は外にとめてあった「トヨペット・クラウンという名の乗用車の新車」の後部座席に乗り込みます。

下に引用させていただいたのは、タクシーとしても利用された高級車・初代クラウンの写真です。ここでは柳田が熊吾に対し「戦後10年で、日本もこんな国産車を製造できるようになったんかと、まあ言うたら万感胸に迫るっちゅう思いに駆られて買うたんや」と言う場面をイメージしてみます。

甲田憲道からマッコリをすすめられ

蘭月ビルにある熊吾の妹のお好み焼き屋で、テッチャン(牛の臓物)を食べていると、「幼い女の子を抱いた男」が入っています。そして、「その三十五、六歳かと思える男が、あまりにもプロレスラーの力道山に似ていた」とあります。

甲田憲道という鉄工会社の社長で、「この年齢で、これほどの落ち着きと貫禄を持つ男は、滅多にお目にかかれるものではない」と熊吾は考えます。下には力道山さんの試合のポスターの写真を引用させていただきました。

ここでは、「松坂さん、一杯いかがですか」と笑顔でマッコリをすすめる甲田と、「甘みと酸味がちょうどいい塩梅」と堪能する熊吾の姿をイメージしてみます。

ヤカンのホンギの部屋では茶を一服

蘭月ビルには朝鮮半島にルーツをもつ人が多く住んでいました。「ヤカンのホンギ」もその一人で本名は「供引基」です。伸仁がいうには「 引基は朝鮮語でホンギと読むそうやねん。ヤカンを作る工場に勤めているから」その呼び名ということです。

「歳は五十二、三歳で、背は低いが頑丈な骨格の、不愛想な男だった」とあります。 伸仁を病院に運んでくれたことのお礼をしに部屋を訪ねると「ぼくの点てる茶を一服、どうですか」と誘われます。

部屋に入ってみると「六畳の畳敷きの部屋の奥に茶釜があり、そこから湯気が出ていた・・・・畳半畳分の炉が切ってあり、そこでは炭がいこっている」という状態でした。下に引用させていただいたのは、ホンギの部屋にも合った霰釜(あられがま)の写真です。ここでは、蘭月ビルにこんな部屋があったのかと驚いた熊吾が 「ここは茶室ですな」 と言う姿を想像してみます。

熊吾親子が競馬で一儲け!

熊吾は伸仁を連れて京都競馬場にやってきますが、伸仁からも「きょうのお父ちゃんの予想、ぜんざん当たれへんねんもん。競馬場についてから五戦全敗やで」と言われる始末です。

あきらめ気分の熊吾は、最後に伸仁の選んだ組み合わせもふくめた六点張りにします。下に引用させていただいたのは、昭和33年のころの京都競馬場の写真です。ここでは、「真ん中にある大きな人工池の向こうでスターターがゲートのところへと歩き出した」とある緊張の場面をイメージしてみます。

ちなみに、このレースでは伸仁の予想があたり、「伸仁の私立中学校への進学費用」となるほどの大金が入りました。

旅の情報

京都競馬場

熊吾が伸仁が万馬券を当てた京都競馬場は、天皇賞や菊花賞、エリザベス女王杯などの主要なレースが行われることでも有名です。下には小説にも出てくる池も含んだスケールの大きな写真になります。現在は大規模改修中で、2023年までは (場外馬券場や公園などの) パークウインズ運用となっています。

熊吾の頃はなかった幅64mもの巨大なスクリーンもあり、開催時には迫力のあるレースを観戦できます。また、和洋食や中華、お寿司屋などの食事処や、ターフィー というJRAのマスコットを主に扱うショップ、 大型遊具やふわふわドームなどもあり、ファミリーやカップルでも楽しめます。

【住所】京都府京都市伏見区葭島渡場島町32
【アクセス】京阪淀駅から徒歩2分
【関連サイト】https://www.jra.go.jp/facilities/race/kyoto/

プロレス美術館

蘭月ビルのお好み焼き屋の常連であった甲田憲道は、力道山に激似であったことは上でもご紹介しました。プロレスにご興味がおありなら、同じく京都市内にあるプロレス美術館に立ち寄ってみてはいかがでしょうか。

アントニオ猪木対モハメド・アリ戦の電車の中刷り広告や、タイガー・ジェット・シンのターバン、ミル・マスカラスのマスクなどプロレス好きにはたまらない貴重な品々が展示されています。また、下に引用させていただいた写真のように、部屋の中央には館長自作のリングもあり、テンションがあがりそうです。

お店の営業は主に土日・祭日の午後になります。定員が6名ほどなので前日までのご予約をおすすめとのことです。

【住所】京都府京都市左京区高野清水町55
【アクセス】京阪出町柳駅から徒歩10分
【関連サイト】https://pro-wrestling-museum.jimdofree.com/