村上春樹「ダンス・ダンス・ダンス」の風景(その5)

札幌の映画館で!

羊男から「踊るんだよ。音楽の続く限り」とアドバイスされた「僕」は引き続き札幌のホテルに宿泊しながら「旧いるかホテル」との接点を探します。そして偶然入った映画館で「旧いるかホテル」で共に過ごした(羊をめぐる冒険の風景その2・参照)「耳専門のモデル」が五反田君と一緒に写るシーンを目にすることに!「僕」は彼女の情報を得るため五反田君の住む東京に戻ります。

ホテル周辺を探索

「うまくいけば何かにぶつかるかもしれない。・・・・・・何もやらないよりは動いた方がいい」
と考えた「僕」はホテルの周辺を一時間ほど歩きますが「旧いるかホテル」との接点は何も見つかりません。
「十二時半にマクドナルドに入ってチーズバーガーとフライド・ポテトを食べ、コカコーラを飲んだ」とあります。

子供向けのおまけが付いた「ハッピーセット」など多彩な企画を展開するマクドナルドですが、1980年代前半には下に引用させていただいた「マックボール」というけん玉の販売も行っていました。「僕」の入ったお店のレジ横にもこちらのようなグッズが置いてあったかもしれません。

映画館にて

「マクドナルドを出てまた三十分歩いた。何もなかった。ただ雪が激しさを増しただけだった」とのこと。
「僕」はトイレを借りて体を暖めるために映画館に入ります。そこで上映されていたのは友人の五反田君が出演する「片想い」という映画でした。

上には古い映画館の写真を引用させていただきました。ここでは「鉄道員」の隣に「片想い」という縦書きタイトルを置いてみましょう。

スクリーンにキキの姿が…

映画は売り出し中のローティーンの女優が主人公の高校生の役で、五反田君は主人公があこがれる生物の先生役です。ある日曜日の朝に主人公が、手作りクッキーを持って五反田君(先生)を訪ねてきます。
そこで見たのは五反田君と裸で抱き合う見知らぬ女性の姿でした。主人公はショックを受けて走って出ていきます。

「彼は女の背中を撫でている。カメラがくるりと回りこむように移動してその女の顔を映し出す」
そして
「それはキキだった」
とあります。
「キキ」とは「羊をめぐる冒険」で行動をともにした「耳専門のモデル」の名前です。

出典:写真AC
https://www.photo-ac.com/main/detail/26650692&title=%E6%98%A0%E7%94%BB%E9%A4%A8%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%B3

ここでは、上の写真のシートに「僕」を置き、映画が終了しても、
「僕はまだ体を固くこわばらせたままじっと白いスクリーンを睨んでいた。これは現実なのだろうか・・・・・・」
と混乱する「僕」を想像してみましょう。

少女を連れて東京へ

キキと映画で共演した五反田君が、彼女について何らかの情報を持っていると考えた「僕」は、彼の住んでいる東京に戻ることにしました。
フロントでユミヨシさんにそのことを伝えると、先日、最上階のバーにいた女の子(ユキ)を東京まで送り届けるよう依頼されます。以下、フロントでの会話を抜粋します。

ユミヨシ「次の飛行機で帰るんだったら、ひとつお願いがあるんだけど、きいてくれる」
僕「もちろん」
ユミヨシ「実は十三歳の女の子が一人で東京に帰らなくちゃならないの。お母さんが用事ができて先に何処かに行っちゃったの・・・・・・」
僕「よくわからないな・・・・・・どうしてお母さんが子供を一人で放り出して何処かに行っちゃったりするんだよ?そんなの無茶苦茶じゃないか?」
ユミヨシ「だからまあ、無茶苦茶な人なのよ。有名な女性カメラマンなんだけれそ、ちょっと変わった人なの。思いつくとどっかにさっと行っちゃうの。子供のことを忘れちゃって・・・・・・あと一週間仕事でどうしてもカトマンズにいなくちゃならないんだって・・・・・・」

下にはカトマンズの南に位置する世界遺産パタン・ダルバール広場の写真を引用しました。ユキの母(アメ)もこちらで写真を撮っていたかもしれません。

出典:Clemensmarabu, CC BY-SA 3.0 https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0, via Wikimedia Commons
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Nepal_Patan_Mangal.jpg


僕「ねえ、その子ひょっとして髪が長くて、ロック歌手のトレーナーを着て、ウォークマンを聴いてない、いつも?」
ユミヨシさん「そうよ、何だ、ちゃんと知ってるんじゃない」
僕「やれやれ」

ユキは「ドイツ・シェパードが立ったまま一匹入りそうなくらい大きなスーツケース」を持ったボーイとともにロビーに下りてきます。
「彼女は『TALKING HEADS』と書かれたトレーナー・シャツを着て、細いブルージーンズとブーツを履き、その上に上等そうな毛皮のコートを羽織っていた」
とのこと。

上にはトーキング・ヘッズの「リメイン・イン・ライト」に収録されている「ヒート・ゴーズ・オン(ボーン・アンダー・パンチズ)」という曲を引用させていただきました。「リメイン・イン・ライト」は1980年のアルバムで、そのユニークなジャケットはTシャツやトレーナーのデザインとしても使われています。

素っ気ない態度の少女

雪のため飛行機の出発が遅れることになったため、「僕」は荷物のチェックインをせず、コーヒー・ショップで待機することにしました。
僕「ねえ、何日くらいあのホテルに泊まってたの?」
ユキ「十日」
僕「お母さんはいつ行っちゃったの?」
ユキ「三日前」
僕「学校は春休みなの、ずっと?」
ユキ「学校は行ってないの、ずっと。だから放っておいて」
「ポケットからウォークマンを出してヘッドフォンを耳にあてた」とあります。

上に引用させていただいたのはソニー製のカセットウォークマンの写真です。「ダンスダンスダンス」の舞台となった1980年代には、若者の間でポータブルヘッドホンステレオが急速に普及し、「ヘッドホン族」という言葉も誕生しました。

ここではチューインガムを噛みながら「個人的な音楽の中にひたった」というユキの姿を想像しておきます。

新しい歌と昔の歌

飛行機の出発が4時間遅れるとのアナウンスを聞いた「僕」はユキと一緒にレンタカーで周辺をドライブすることにします。
最初はユキがウォークマンで聴いていた1980年代の洋楽を流します。
「デヴィッド・ボウイが『チャイナ・ガール』を歌っていた」とのこと。
1983年のアルバム「レッツ・ダンス」に収録されている「チャイナ・ガール」を下に引用させていただきました。

ユキは「レンタカー・オフィスで借りてきた」「オールデイズのテープ」を見つけ、
「それ聴きたい」
といいます。

「まずサム・クックが『ワンダフル・ワールド』を歌った。「『僕は歴史のことなんてよく知らないけれど・・・・・・』、いい歌だ」

下に引用させていただだいたように、CMでもカバーされた名曲です。

更に、エルビスの「ハウンド・ドッグ」やチャック・ベリーの「スイート・リトル・シックスティーン」などを「僕」は口ずさみます。
ユキ「よく覚えているのね」
僕「僕も昔は君と同じくらい熱心にロックを聞いてたんだ」
ユキ「今はどうなの?」
僕「昔ほどは感動しない・・・・・・本当にいいものはとても少ない。・・・・・・でも昔はそんなこと真剣に考えなかった。・・・・・・若かったし、時間は幾らでもあったし、それに恋をしていた。つまらないものにも、些細なことにも心の震えのようなものを託することができた」
ユキ「今は恋をしないの?」
僕「むずかしい質問だ・・・・・・君は好きな男の子はいるの?」
ユキ「いない・・・・・・嫌な奴はいっぱいいるけど・・・・・・音楽聴いてる方が楽しい」
僕「みんなはそれを逃避と呼ぶ。でも別にそれはそれでいいんだ。・・・・・・何を求めるかさえはっきりとしていれば、君は君の好きなように生きればいいんだ」

会話をするうちに
「僕らは少しずつ仲良くなって、ビーチ・ボーイズの『サーフィンUSA』のバック・コーラスを二人でつけた」
とあります。
上に引用させていただいた曲のなかに「inside-outside-U.S.A.」と「僕」やユキがコーラスを入れる場面を想像してみましょう。

絶品のイタリアン

羽田に到着した「僕」はユキとともに自宅のある渋谷の近くのイタリアンに向かいます。
そこで
「僕はラヴィオリと野菜サラダを食べ、彼女はボンゴレのスパゲッティとほうれん草を食べた。そして魚のフリット・ミストを一皿注文して二人で分けた」
とあります。

上には美味しそうなイタリアンの写真を引用させていただきました。
「フリットはかなりの量があったが、彼女はおなかがすいていたらしく、その上ティラミスまで食べた」
とのこと。
そして「僕」に信頼感を抱いたユキは自分の身の上について語り始めました。

旅行などの情報

トラットリア シチリアーナ・ドンチッチョ

「僕」がユキを連れて行った「渋谷の近くのイタリアン」を想像できるレストランとして青山一丁目のシチリア料理店をご紹介します。

人気メニューの「本日のフリットミスト」は魚や野菜、チーズなどのフリットの盛り合わせでシチリアワインなどのお酒ともよく合います。ボリュームもあるので「僕」のように複数人で分けるのもよいでしょう。また、下に引用させていただいた「イワシとウイキョウのパスタ」は爽やかなウイキョウ(フェンネル)がイワシとの相性抜群の名物です。

ほかにも「カジキマグロのパレルモ風炭火焼き」は脂がのったジューシーな味わいが評判、仔羊や岩手短角牛などのお肉料理までメニューが充実しています。

基本情報

住所:東京都港区南青山1-2-6 ラティス青山スクエア1F
アクセス:都営大江戸線・青山一丁目駅から徒歩約1分
関連サイト:https://tabelog.com/tokyo/A1306/A130603/13281828/dtlphotolst/smp2/

サンワサプライ・400-MEDI002

「ダンスダンスダンス」を読んで昔のカセットが聞きたくなった方もいらっしゃるのでは?サンワサプライなどでは現在もカセットを再生できるポータブルオーディオプレイヤーを販売中です。

例えば商品型名「400-MEDI002」という「カセットテープ MP3変換プレーヤー」はカセットテープを直接聴けるだけでなく、デジタル(MP3)に変換してくれる機能もあります。PC保存タイプ(400-MEDI002)のほか、microSDカードやUSBに保存できるタイプもあるので、詳細は公式サイトでご確認ください。

基本情報

公式URL:https://direct.sanwa.co.jp/

山本無線・e-Box店

昔ながらのカセットウォークマンにも興味があるという方におすすめなのが秋葉原にある「山本無線・e-Box店」です。こちらには、下にリンクさせていただいたように初号機が展示されているほか、状態のよい中古商品の購入もできます。
ご購入の場合は在庫を確認の上お出かけください。

基本情報

住所:東京都千代田区外神田1-14-2ラジオセンター2階
アクセス:秋葉原駅から徒歩約2分
関連URL:http://www.yamamoto.co.jp/e-box_home/