宮本輝著「長流の畔」の風景(その2)

熊吾夫婦がトラブルに

熊吾は「松坂板金塗装」を元パブリカ大阪北・専務の東尾修造に売り、借金の返却に当てることができました。会社の運営は順調ですが、愛人との関係を房江に知られ私生活の面では破綻をきたすことに・・・・・・。今回はこの時代の風景や活躍した人物、食べ物なども紹介していきます。

伸仁は伊豆旅行へ

高校2年の夏、伸仁はアルバイトでためたお金で1週間ほどの旅行に出かけます。伸仁の残していった旅程は以下のようなアバウトなものでした。
「一日目、朝、三島着、大仁へ。大仁ユースホステル泊。
二日目、大仁から修善寺へ。修善寺のユースホステルは満員で予約出来ず。どこかで寝るか、バスで湯ヶ島へ行くかも。
三日目、修善寺か湯ヶ島からバスで天城峠へ。どこかで野宿。
……
七日目:バスで城ケ崎へ。気分次第で熱海まで行くかも。七日間か八日間の予定。以上。」
伸仁のスケジュールにある「ユースホステル」は相部屋で安く泊まれるのが特徴で、当時急速に数を増やしていました、一方でユースホステルを知らない熊吾が「伸仁が泊ったのは、ユースホステスか?」と房江に聞く場面もあります。

以下に引用させていただいたのは伸仁が旅行した時代のガイドブックの写真です。ここでは、ユースホステルのスタンプラリーを楽しむ伸仁の姿をイメージしてみます。

キング牧師の演説

丹下甲治と会うために市電に乗りこんだ熊吾は、忙しくて二十日間ほど読めなかった新聞や週刊誌をまとめ読みします。目にとまったのは「マーティン・ルーサー・キング・ジュニアという黒人牧師の名。ワシントン大行進という見出し」でした。「人種差別撤廃と雇用拡大を求めて十万人以上が参加した」とのこと。

「私には夢がある。私の四人の子供たちがある日、肌の色ではなく人物の内容によって判断される国に住むことを」といった演説の一部も紹介されていました。ここでは「演説に深い共感を抱いて」何度も読み返す熊吾の姿をイメージしてみます。

サクラ会・丹下甲治

熊吾のために人気の天麩羅店を予約してくれていた丹下甲治は改めて自己紹介をします。以前は「食用油の卸し問屋」を営んでいたが、現在は「サクラ会」という貧しい家の子供に教育を受けさせ、就職を斡旋することを目的とした互助会の責任者とのこと。そして、佐竹善国のことも子供のころから面倒を見ているとのことでした。

また「二十歳を過ぎたころまで軽い吃音でして、軍隊では底意地の悪い上官にいじめられたんです」といいます。さらに、陸軍の軍人の話から転じて「えらくなろうとしても、えらくなれなかった男どもは、ちょっとしたことで女房に暴力を振るうんです」と持論を展開しますが、それは自分にも当てはまると感じます。

下に引用させていただいたのは大阪の有名な天ぷら店・廣長の料理の写真です。ここでは、「こんなうまい天麩羅を食べたのは久しぶりです」とエビ、玉葱、キス、しし唐などを順に口にいれながらも「自嘲の念」を抱く熊吾の姿をイメージしてみましょう。

アジフライは定番料理ではなかった!

熊吾が柳田社長から依頼されているシンエー・モータープールの管理人としての期限が近付いたため、房江は新しい引っ越し先を探して内見をします。そして、その帰りに佐竹善国の妻が働いているという鮮魚店を訪問。自己紹介をした後に「テレビの料理番組で習ったままでいちども作っていないあじのフライを今夜のおかずにしてみよう」と考えた房江は「あじをフライにしたいのだが」といいます。「フライですか?天麩羅やのうて?」と返す佐竹の妻。現在でこそアジ料理の定番となっていますが、当時は天麩羅が主流だったことがわかります。

下に引用させていただいたのは昭和38年当時人気があった料理番組「夕べの料理」や、今も続く「キユーピー3分クッキング」の写真です。ここでは「キユーピー3分クッキング」を見ながらアジフライのレシピをメモする房江の姿を想像してみます。

昭和時代のカップアイスとは?

8月下旬のある日、大阪中古車センターに遊びにきた理沙子と清太(佐竹善国の子)に、熊吾はアイスクリームを買うためのお金(100円札)を渡し「アイスクリームを三つじゃ。帰り道に歩きながら食べちゃあいけんぞ。」といいます。

下に引用させていただいたのは昭和時代の懐かしいカップアイスの写真です。ここでは、美味しそうにこのようなアイスクリームを食べる子供たちの姿をイメージしてみましょう。

熊吾はずるずると続いていた森井博美との関係をとうとう房江に知られてしまいす。迫力のある場面なので詳細は「長流の畔」をお読みください。房江は「もうモータープールには帰ってこんといて」といって博美のアパート立ち去り、次回の「長流の畔」の風景からは(熊吾は)博美のアパートで寝泊まりすることになります。

旅行の情報

天ぷら・廣長

熊吾がサクラ会・丹下甲治と会食をする場所として登場してもらった天ぷら店。創業70年以上になる大阪でも老舗のお店です。2021年に「天ぷら居酒屋」としてリニューアルし、下に引用させていただいたようにインテリアも一新されています。

昼は職人が目の前で上げてくれる天ぷらがたっぷり入った「びっくり天丼」がおすすめ。夜はお酒を飲みながら天ぷらコースをゆったりと味わうことができます。

住所:大阪府大阪市中央区本町橋6-12
アクセス:堺筋本町駅から徒歩約5分
参考サイト:https://tabelog.com/osaka/A2701/A270106/27035218/

森永エンゼルミュージアム・MORIUM

熊吾が佐竹の娘たちにアイスクリームをおごる場面ではレトロなアイスクリームに登場してもらいました。他にも懐かしいお菓子が見たくなったら2022年にオープンしたMORIUMに行ってみてはいかがでしょうか。

事前予約制で料金が無料なのもうれしいポイント。ヒストリーエリアでは懐かしい森永商品のパッケージや広告などを見ることができます。また、下に引用させていただいたような歴代の「おもちゃのカンヅメ」も展示され、「小枝」などの製造ラインを見学できるのもこちらならではです。ミュージアムショップもあるのでお好みのオリジナルグッズを探してみてはいかがでしょうか。

住所:神奈川県横浜市鶴見区下末吉2-2-1
アクセス:JR鶴見駅からバスに乗りかえ「森永工場前」で下車
参考サイト:https://www.morinaga.co.jp/factory/tsurumi/