井上靖著「しろばんば」の風景(その6)
将来の夢は?
洪作は椎茸栽培を研究している祖父を訪問し、ひたむきな態度や人間性に感銘を受けました。そして一緒に訪問した従兄と語るなかで、自分が将来のことをなにも考えていないことに焦りを感じます。また、村には初めてバスがやってきて乗合馬車屋との争いが勃発。洪作と村の変化をメインに風景を見ていきましょう。
祖父・林太郎
ある秋の日、石守森之進の息子で洪作の従兄にあたる唐平がやってきて、祖父・林太郎に会いに行こうと誘います。林太郎は「椎茸(しいたけ)伝習所」なるところで椎茸栽培を研究・伝承していました。
森の中にこもり「椎茸爺さん」とも呼ばれるという設定ですが、実際に井上靖氏の祖父・石渡秀雄氏は椎茸栽培の権威として知られた人物でした。下の写真のような場所で若者の指導をしていたのでしょうか?
椎茸飯
険しい山道を乗り越えてやっと椎茸伝習所に到着した洪作たちは、林太郎爺さんから椎茸飯を振舞ってもらいます。詳細な記述はありませんがきっと下のように贅沢に椎茸が入ったシンプルなものだったのではないでしょうか?新鮮さが売りの肉厚の椎茸。味の浸みたご飯も美味しそうです。
将来の夢は?
椎茸栽培について詳しいことを教えてもらった後、久しぶりに林太郎と語った洪作は、「椎茸作りは自分が好きだからやっている」、「好きなことは人それぞれなので自分で選べばいい」などと語る祖父に感銘を受けました。また従兄・唐平から将来の夢の話を聞くなど、この小旅行は洪作が将来のことを考えるきっかけとなりました。
バスがやってきた
洪作にも転機がおとずれつつありましたが、村の交通も転換期を迎え、主要交通手段だった馬車に加えて「バス」が新しく登場します。当時のバスは下に引用させていただいたようなボンネットバスが主流で、豊後高田市のように今でも観光用として利用できるところもあります。
テレビもなかった時代、馬車になれた村人たちにとってはバスは不思議な乗り物でした。ここでは、村役場に展示されてているバスの周辺に、見学のために大人・子どもを問わずに集まる村の人たちをイメージしてみます。
乗合馬車とバス
新しいものがやってくると必ず抵抗にあうのが世の習いです。 明治時代に登場したバスはライバルであった乗合馬車屋からのいやがらせが絶えなかったといいます。大正時代になって湯ヶ島に入ってきた時も似たような状況で、小説にもお互いに道を譲らないなどの場面が描かれていきます。
新しいもの好きの子供や若者はバスに、老人は乗合馬車に乗るというのがその当時の一般的なスタイルだったようです。下は信州・奈良井宿を走るボンネットバスの写真を引用させていただきました。観光用として、今でもたくさんのレトロバスが走っていますので、乗り心地を試してみてください。
大人の仲間入り
男女混浴の共同浴場・西平の湯を利用していた洪作。高等科の女学生から「洪ちゃのスケベエ」といわれて唖然とします。小学校も高学年となった洪作は、子供から少年への移行時期だということを感じさせられる出来事でした。
(その1)でご紹介したとおり現在は「河鹿の湯」として営業。男女別の立派な浴槽が付いています。脇には今も当時の面影を残す狩野川が流れています。お風呂からは下のような風景が見られたのではないでしょうか?
旅行の情報
しいたけの里
林太郎爺さんが栽培していた場所そのものではありませんが、今でも伊豆ではしいたけ栽培が盛んです。こちらの施設は原木栽培のしいたけ狩りができることでも人気があります。採りたてのジューシーなしいたけを食べられるバーベキューセットもあり、焼き鳥やおにぎりなどもついて1500円から2500円ほどとリーズナブルです。
[住所]静岡県伊豆市年川785-1
[電話番号]0558-72-8484(しいたけの里)
[アクセス] 修善寺駅から東海バスを利用、年川で下車後徒歩で約10分
[参考サイト]http://www.office-web.jp/shiitakenosato/
日本自動車博物館
ボンネットバスが見たくなったら石川県にあるこちらの博物館がおすすめ。日産やトヨタ、いすずのボンネットバスを同時に見ることができます。他にもクラシックカーなど 国産車と外車で合計約500台も展示されている人気の施設です。
[住所]石川県小松市二ツ梨町一貫山40
[電話番号]0761-43-4343
[アクセス] 加賀温泉駅からバスを利用。バス停・日本自動車博物館で下車
[参考サイト]http://mmj-car.com/