内田百閒著「第二阿房列車」の風景(その3)
山陽本線の特別急行「かもめ」
京都までは急行銀河
山陽本線に乗るためには先ずは京都まで行く必要があります。先生たちが利用したのは「急行銀河」。例によって熱燗が入った魔法瓶を2つ持って出かけます。下に引用させていただいたように当時から人気歌手だった美空ひばりさんも頻繁に利用した列車だったそうです。美空さんたちが楽しそうにおしゃべりしている一方(同じ列車に乗ったかどうかは不明ですが)、先生たちは寝台ベッドと外から持ち込んだ絵かき用の三脚に座りコの字になってお酒を飲みます。ここではすぐにお尻が痛くなる三脚に交替で座る先生と山系君の姿をイメージしてみます。
「かもめ」に乗り込む
京都に朝早く到着した先生一行は山陽線の出発までの時間を利用して京都御所や平安神宮をタクシーで観光します。駅に戻ると駅長に案内されて新列車「特別急行かもめ」に乗り込みます。下に引用させていただいたのは百閒先生の旅行(昭和28年)よりも少し後の時代の「かもめ」の写真です。新車のお披露目も兼ねているだけあって人が行ったり来たり落ち着かない様子。舞妓さんも乗り込むなど通常とは違う雰囲気です。下の写真の窓際に、周辺を少しうるさがって目を閉じている先生を姿を想像してみます。
けん引する機関車は下に引用させていただいたような「C59」 でした。京都駅を定刻8:30に出発。「汽笛が鳴って、動き出した」とあります。
「京都の駅は馬鹿に広い。段々速くなってきているけれど、まだ構内を出切らない」とあります。当時の京都駅は3代目。下に引用させていただいたようなこの旅の前年にできたばかりの新しい駅でした。 建物が横長で 先生が記しているようにホームが長そうな駅です。
曲がった鉄橋
電車は大阪や兵庫を過ぎ、岡山に至ります。この周辺で印象的なのが「曲がった鉄橋」です。子供の頃高等小学校の先生から「橋が曲がっているのは、こっち岸と向こう岸と両方から計って来た測量が間違ったからだと教えた」とあります。実際はトンネルを掘るのを避けるために設計したのが要因で山裾に沿わせて鉄橋も曲げたとのこと。下に引用させていただいたのは現在の鉄橋と先生の頃の橋台跡(橋の右下)の写真です。現在も少しカーブを描いて橋梁が造られています。この橋の画像から先生が見ていた風景を想像することも充分に可能です。
大手まんじゅう
岡山駅では先生の幼馴染の「真さん」という方が登場。「東京へ持って帰るお土産の大手饅頭を・・・私が時々夢に見るほど好きな事を知っているものだから、持ち重りがする位どっさり持って来てくれた」とあります。下に引用させていただいたのは現在も販売されている大手饅頭の写真です。こしあんに甘酒のコクが施された薄皮の食べ物。地元では吉備団子よりも人気がある程です。ここでは、箱と竹の皮包み入りどちらかから1個・2個つまみ食いをする百閒先生の姿をイメージしても良いかも知れません。
アイスクリームを3つも!
博多で「かもめ」の旅を終えた先生は洋風のホテルに落ち着きます。そしてその夜はホテルに案内してくれた教え子と山系君との3人で心置きなく飲みます。ホテルの朝食がまた印象に残る場面。先生の朝食はこれまた好物のアイスクリームでした。山系君の分もと考え3人分をルームサービスでオーダーしますが、山系君はトーストとコーヒーにすると言い張ります。仕方なく3つも食べる羽目になった先生。一つ目は美味しく食べましたが二つ目の後半では口が冷たすぎと感じ始め、三つ目を食べ終わったころには「頭痛がする様」な気分になってしまいます。小説では「氷のすい」の冷たさとアイスクリームの冷たさを比べる場面があります。下に引用させていただいたのはその「氷のすい」の写真です。かき氷に砂糖水をかけたシンプルなもの。スッキリ味で美味しそうです。ここでは先生がこの「氷のすい」に負けず劣らず冷たいアイスクリームを食べすぎて頭を押させている姿を想像してみます。
先生一行は博多から更に南に向かい「第一阿房列車」でも宿泊した八代の旅館にも宿泊します。このくだりも見どころ満載なので本文でじっくりとお楽しみください。
旅行の情報
吉井川橋梁(跡)
こちらは百閒先生が「曲がった鉄橋」として取り上げた鉄橋の跡です。先生が述べていた下り線(もともと単線)の鉄橋は今では橋台の跡のみが残っています。隣接して造られている現在の橋梁も少しカーブしているのは同じ。この周辺は電車を美しく撮影できるスポットとして鉄道ファンの方を中心に人気になっています。
【住所】岡山県苫田郡鏡野町
【アクセス】JR姫新線津山駅から車を利用
【参考サイト】 http://e-seto.net/midokoro/map1/04.pdf
大手饅頭伊部屋・雄町工場店
大手饅頭は先生が文中で「大手饅頭なら潰されもいい」というほどの好物でした。製造元の「大手饅頭伊部屋」は江戸時代創業の老舗。特に工場併設の雄町工場店ではできたての大手饅頭を購入できることでも評判です。イートインコーナーも設置。ここでしか食べられない上品な味をご堪能ください。ちなみに夏には「饅頭ソフト」なる甘さ控えめのスイーツも売れ筋商品となります。
【住所】岡山県岡山市中区雄町201-1
【電話】086-279-3688
【アクセス】高島駅から車を利用
【参考サイト】 https://www.ohtemanjyu.co.jp/