村上春樹著「1973年のピンボール」の風景(その4)
再び「僕」の物語
双子との奇妙で平穏な生活を続ける「僕」。土曜日には朝の4時までバックギャモンをしていました。
配電盤の交換
日曜日の朝、僕の部屋をノックする音が聞こえます。「新聞の勧誘員以外に僕の部屋をノックする人間なんて先ず誰もいない」のに。話を聞くと電話局の人で古くなった配電盤を取り換えに来たとのことです。「今ので不自由ないんだ」という「僕」に対し「お宅だけが皆と違う信号を出すとするとね、これはとても困るんだ」といいます。「わかるよ。ハードウェアとソフトウェアの統一の問題だよね」と納得した「僕」は工事人を入れて作業をしてもらいます。下に引用させていただいたのは古い配電盤の写真(左側)です。工事人はなぜか交換した古い配電盤を置いて行ってしまいます。こんな感じのものだったでしょうか。
デニッシュ・ペストリー
作業が終わった工事人に「僕」は「残っていたデニッシュ・ペストリーを勧めてみた」ところ「彼はひどく喜んでそれを受け取り、コーヒーと一緒に食べた」とあります。下に引用させていただいたのはデニッシュ・ペストリーの老舗アンデルセンの人気商品(ダークチェリー)です。「日曜日の朝は(妻が)起きちゃくれないんです」とぼやきながらコーヒーをお供に美味しそうに食べる工事人の姿をイメージしてみます。
下宿の思い出
この小説では「僕」の学生時代の話も挿入されます。「僕が学生の頃に住んでいたアパートでは誰も電話なんて持ってはいなかった」とあるように当時の下宿(または店舗など)には下に引用させていただいようなピンク電話があるのが一般的でした。「僕は一階の管理人室の隣の部屋に住み、その髪の長い少女は二階のわきに住んでいた。電話のかかってくる回数では彼女はアパート内のチャンピオンだったので・・・・階段を何回となく往復する羽目になった」とあります。女性は東京に馴染めず「北の方」にある実家に帰ることに。前日「僕」の部屋を訪ね電話を取り次いだお礼に食器やビスケットなどを置いて行きます。ここでは東京での最後の日に女性が「いつものボソボソとした話し声」である男性と15秒ほどの短い電話をしている風景を想像してみます。
ユニークな翻訳も!
風邪で3日ほど休んだ「僕」の前には山のように翻訳待ちの書類が置かれています。「全部に至急というゴム印が押され、その下には赤いフェルト・ペンで期限が書き込まれていた」とあります。また「その内容たるや実に心躍るとりあわせだった」とも。「チャールズ・ランキン著・科学質問箱・動物編」なる本では「熊が魚を取る方法」の翻訳が求められています。「誰がどのような理由で、このような文章の翻訳を(それも至急に)望んでいるのか見当もつかなかった」と思う「僕」。下に引用させていただいたのは川で魚を探す熊の写真です。「おそらくは熊が川の前にたたずんで僕の翻訳を心待ちにしている」というのはこんな感じでしょうか?
ラバー・ソウル
まだ熱のある状態での仕事で疲れ切った「僕」はスーパーマーケットで夕食の買い物をして家に帰ります。家では双子が待っていてピールを運んでくれたり音楽をかけてくれたりします。ヘンデルの曲の次はビートルズの「ラバー・ソウル」なるアルバム。混乱した「僕」は「こんなレコード買った覚えないぜ」と叫びます。双子はもらったお金を少しずつ貯めて買ったと弁明。このアルバムには「ノルウェーの森」などの曲が入っています。ネットでは村上氏のベストセラーの一つ「ノルウェーの森」との関係についても取り上げられる場面。ご興味がある方は検索してみてください。下に引用させていただいたのはその「ノルウェーの森」の楽曲です。ここでは「僕」と双子がコーヒーを飲みながら聴いている様子を想像することにします。
純粋理性批判
この小説の中で「僕」が随時読んでいるのが「純粋理性批判」。ドイツの哲学者・カントが18世紀に発行した書籍です。下に引用させていただいたのは岩波文庫版の写真。「煙草を一箱持ってベッドにもぐりこんだ。・・・カントは相変わらず立派だったが、煙草は湿った新聞紙を丸めてガスバーナーで火をつけたような味がした」とあります。ここでは本を読みながら「暗闇にひきずり込まれるように目を閉じた」とある「僕」の姿をイメージしてみます。
旅行の情報
アンデルセン東急渋谷東横店
配電盤の工事人にごちそうしたデニッシュ・ペストリーで登場してもらった「アンデルセン」は創業70周年以上の老舗のパン屋さんです。創業者がデンマークでデニッシュの味に感動し日本初のデニッシュペストリーを販売したことでも有名。ダークチェリーをトッピングしたものは根強い人気です。デンマーク語で「ありがとう」を意味するTAKデニッシュの4個入は友人とのコーヒーや紅茶タイムのお供にもおすすめとなっています。
【住所】東京都渋谷区渋谷2-24-1東急百貨店東横店B1F(アンデルセン東急渋谷東横店)
【電話】03-3477-4612
【アクセス】渋谷駅から徒歩で1分以内
【参考サイト】https://www.andersen.co.jp/