村上春樹著「1973年のピンボール」の風景(その5)

配電盤のお葬式&ピンボールを捜索

今回からは小説のタイトルでもあるピンボールが本格的に登場。その出会いや捜索などについてSNSの力を借りながらご紹介していきます。

配電盤のお葬式

ある朝起きると双子から工事人が置いて行った配電盤のお葬式をやりたいとの依頼をうけます。「僕」は仕事の共同経営者に空色のフォルクスワーゲンを借ります。下に引用させていただいたのは綺麗に整備された同型の車の写真です。一方、「僕」が借りた車の中は「後部座席には彼の息子がこすりつけたらしいミルク・チョコレートのしみが、まるで銃撃戦のあとの血痕のように一面にしみこんでいた」とあります。

雨のなか車を走らせ、貯水池に到着した双子と僕はクッキーとコーヒーで腹ごしらえをします。「何かお祈りをいって」という双子に対し僕は愛読書のカントを引用しこう言います。「哲学の義務は誤解によって生じた幻想を除去することにある。・・・配電盤よ貯水池の底に安らかに眠れ」。配電盤を投げると「雨の中を見事な弧を描いて飛び、水面を打った。そして、波紋がゆっくりと広がり、僕たちの足元までやってきた」とあります。下に引用させていただいたのは天気の悪い日のある貯水池の写真。配電盤を送る言葉を唱える「僕」の厳粛な声や池の波紋などを重ねてイメージしてみます。

ピンボールが気にかかる!

「ある日、何かが僕たちの心を捉える。なんでもいい、些細なことだ。バラの蕾、失くした帽子、子供の頃に気に入っていたセーター・・・・その秋の日曜日の夕暮れ時に僕の心を捉えたのは実にピンボールだった」とあります。その時、「僕」は双子たちと一緒に営業後のゴルフ場を散歩中でした。「八番ホールはパー5のロングホールで坂もない。小学校の廊下みかたいなフェアウェイがまっすぐに続いているだけだった。・・・何故その瞬間にピンボールの台が僕の心を捉えたのか、僕にはわからない」といいます。下に引用させていただいたのはあるゴルフ場のフェアウェイの写真です。このような場所で「バンパーがボールを弾く音や、スコアが数字を叩きだす音が耳元で鳴った」というようにピンボールのイメージが膨らんでいく「僕」の姿をイメージしてみます。

1970年のピンボールは?

僕が初めてピンボールに出会ったのは1970年の夏頃。「ちょうど僕と鼠がジェイズ・バーでビールを飲み続けていた頃」です。その頃「僕は決して熱心なプレーヤーではなかった」とあります。最初にピンボールに魅せられたのは鼠で「92500という彼のベスト・スコアを記念すべく、鼠とピンボール台の記念写真を撮らされたことがある。・・・・鼠はまるで第二次世界大戦の撃墜王のようにみえた」とあります。下に引用させていただいたのは第二次世界大戦のドイツの撃墜王の写真。右下には戦闘機を隣にパイロットの颯爽とした姿が写っています。鼠の姿もこのような感じだったでしょうか。

ピンボールの世界に入り込む

「僕が本当にピンボールの呪術の世界に入り込んだのは1970年の冬のことだった」とあります。(神戸への)帰省から帰った学生時代の「僕」はジェイズバーにあったと同じピンボール台「ギルバート&サンズ社のスペースシップ」 に出会います。その後、ピンボールにはまった「僕」は「大学に殆ど顔も出さず、アルバイトの給料の大半をピンボールに注ぎ込んだ」といいます。「僕」にとってゲームをしている時だけが高揚感を味わえる唯一の時間となりいつしか鼠のベストスコアを上回る腕になります。ところが「年が明けた2月、彼女は消え」、ゲームセンターだった場所には24時間のドーナッツショップが営業していました。下に引用させていただいたのは「スペースシップ」同様、宇宙船が描かれたピンボール台です。このマシンでプレイする僕の姿や(心が通った?)ピンボールマシンと会話する風景をイメージしてみます。

スペイン語講師との出会い

時代は1973年に戻ります。気になるピンボール台・スペースシップを探し続ける「僕」は紹介してもらったピンボール・マニアのスペイン語の講師と会うことに。日本には3台しか輸入されなかった貴重なマシンであることや、放出された台はスクラップの他マニアが引き取る可能性もあることなどが分かりました。可能性は低いですがとりあえず「スペースシップ」を探してもらうことになります。下に引用させていただいたのはピンボールのビッグ4の一つだったウィリアムズ社のマシンの写真です。1973年とのことなので時代もドンピシャ。スペイン語講師の持つ古いスクラップブックにも切り抜きされていたかもしれません。

旅行の情報

アミューズメントフィールド・バイヨン

この本を読んでいてピンボールがしたくなる方も多いと思います。「その1」では大阪のザ・シルバーボールプラネットをご紹介しましたが、東京周辺でたくさんのピンボールと出会いたい方におすすめなのがこちらのゲームセンターです。埼玉県のふじみ野駅の近くにあるアクセスの便利な場所。カンボジアのバイヨン遺跡をモチーフにした建物が非現実の世界に引き込んでくれます。ポーカーやスロットなどのシンプルなメダルマシンのほかピンボールの種類も豊富。下に引用させていただいたようなレトロマシンも設置され子供時代に戻った気分で楽しめると評判です。
【住所】埼玉県ふじみ野市うれし野2-16-1LCモールうれし野2F
【電話】049-265-1400
【アクセス】東武東上線・ふじみ野駅から徒歩5分