内田百閒著「第三阿房列車」の風景(その6)

不知火阿房列車(前編)

この稿は「蚊帳(かや)の裾から、きたない猿が這入ってきて、寝巻を引っ張った」と百閒先生が悪い夢をみるところから始まります。今回は急行・筑紫に乗っての九州方面への旅、いつものように山系君が迎えにきます。

岡山駅にて

次の日の昼過ぎには岡山に10分ほど停車、あらかじめ連絡していた先生の幼馴染「真さん」と会い昔話に花を咲かせます。「私にとっては、今の現実の岡山よりも、記憶に残る古里の方が大事である」とあるようにあまり帰郷しなかった先生ですが友人との関係は大切にしていました。 特に真さんは「(真さんの)子守の婆やと、私の子守の婆やと、婆や同土が連れ立って、御後園(現・後楽園)へ行ったり徳吉の淡島様へお詣りしたりした。その各々の背中に私と彼がおぶさっていた」という親しい間柄でした。 下に引用させていただいたのは先生が子供の頃、婆やとともにお参りしたお稲荷さんの写真とのこと。この場所でまだ小さな先生が婆やにおぶわれ気持ち良さそうに眠っている姿をイメージしてみます。

小倉駅に到着

夜になって最初の宿泊地の小倉駅に到着します。第二阿房列車・雷九州阿房列車の際「小倉の駅で小憩したから駅には一寸した馴染みがある」が「宿の迎えの自動車が走り出した途中の道筋は、東も西もわからない」とあります。下に引用させていただいたのは昭和31頃の小倉駅の写真です。先生が訪問したのは昭和30年の4月ごろ、同様の景色だったと思われます。ここでは下の写真の中にタクシーに揺られる先生たちの姿を置いてみます。

少し足を延ばして

小倉の2日目に先生たちはタクシーで出かけることにします。例によって見たい場所があるわけでもなく「どこか行ってくれればいいんだ。どこだっていいだよ」という山系君の言葉を受けた運転手が周辺の観光スポットを一通り巡ってくれます。「宮本武蔵との仕合に木刀で撃ち殺された巌柳佐々木小次郎」を偲ぶ手向山(たむけやま)の麓にも停車し決闘が行われた舟島を眺めたりしました。下に引用させていただいたのは手向山公園からの関門海峡方面の景色です。先生たちが見たのもこのような風景だったかもしれません。

うらなり先生を思いながら・・

小倉を後にした先生たちは急行「高千穂」に乗り込み宮崎を目指します。周辺が大きな街に発展しつつある延岡駅に停車、師匠の夏目漱石作「坊ちゃん」の登場人物「うらなり先生」が転勤を命ぜられたひなびた場所だったことを思い出します。下に引用させていただいたのは大正から昭和の延岡の写真、江戸時代から続く城下町の風景が残っています。この時先生は鉄道開通前(明治後期)の静かな城下町に赴任したうらなり先生の姿を思っていたかもしれません。

高鍋駅を通過

汽車は先へと進みます。宮崎近くになると「高鍋と云う駅であったか広瀬であったか、忘れたが、ホームのはずれの向こうにこれから這入って行く隧道の暗い穴口が見えている駅に泊まって、行き違いの列車が這入って行くのを待った」とあります。下に引用させていただいたのは最近の高鍋駅の写真です。1947年に造られた木造の建物が健在。ここでは停車した電車から駅や周辺の景色を眺める先生の姿をイメージしてみます。

旅行の情報

内田百閒生家跡

岡山駅で先生が友人と会った際に思い浮かべた実家の跡に建てられた記念碑です。百閒先生の句のほかに丑年生まれにちなんだ牛の彫刻もありほっこりとした雰囲気。もともと生家跡の郵便局前にありましたが現在は80mほど離れた親友「真さん」の家の前に鎮座しています。周辺にある桜の名所「旭川さくらみち」にも百閒先生の文学碑があり散策にもおすすめ、岡山県庁分庁舎1階ロビーには百閒先生の遺品やゆかりの品を展示したコーナーもあります。
【住所】岡山県岡山市中区森下町
【アクセス】岡山駅から車で約10分
【参考サイト】https://www.o-bunka.or.jp/works/bunkazai.html

手向山公園

小倉に宿泊した際にタクシーで観光した場所の一つです。宮本武蔵の養子として知られる小笠原藩の家老・宮本伊織の所領地だった場所で武蔵や佐々木小次郎の記念碑などが見どころとなっています。巌流島などの関門海峡周辺の景色も楽しめる名所としても有名、夜は工場夜景が美しくデートスポットとしても人気です。
【住所】北九州市小倉北区赤坂四丁目
【電話】093-541-4151(北九州観光コンベンション協会)
【アクセス】小倉駅から西鉄バスで手向山まで
【参考サイト】https://www.gururich-kitaq.com/spot/toge-mountain-park

小倉城(勝山公園)

こちらも小倉駅の近くにある観光地です。小説では「城址のお濠の縁も通ったし」と述べられているのみですが、その後(昭和34年)に小倉城天守閣を再建され観光地として賑わうようになります。今では親水広場や芝生公園などがある市民憩いの場としても人気、地元の有名作家を顕彰する「松本清張記念館」は観光客も多く訪れます。
【住所】福岡県北九州市小倉北区城内1番他
【アクセス】JR西小倉駅から徒歩約10分
【参考サイト】https://katsuyama-park.com/