宮本輝著「天の夜曲」の風景(その3)

大阪で再出発

大阪に一足先に戻った熊吾は、起業資金のために保有する刀剣を売ることにします。今回は、刀剣の売り先を思案しつつも、久しぶりにあった古い知り合い(磯部)とともに喫茶店に入る場面から始めます。

喫茶店にて

「磯部は迷うことなく曾根崎小学校の方へと歩き出し・・・OSミュージック・ホールの近くの、カウンターに幾つものサイホンを並べた喫茶店に案内した」とあります。

下に引用させていただいたのは、ある喫茶店のカウンターの写真です。サイホンが並んでいるのは小説と同様ですね。ここでは磯部が「マスター、超豪華ミックスを淹れてんか」と、特製のブレンドコーヒーを注文する場面をイメージしてみます。

関の孫六をどうする?

国宝級の刀剣「関の孫六」をどうするか迷ってる熊吾は、磯部に対し「大阪に戻って以来、いろんな商売につまずいて、今は傘貼り浪人のような境遇じゃ。・・この関の孫六を金に換えようかと、親戚に預けちょったのを、きょう引き取ってきたんじゃ」と打ち明けます。

下に引用させていただいたのは、東京国立博物館での展示の写真です。この名刀をいくらなら売るかと問われ「五十万なら手を打とう」と返す熊吾の姿をイメージしてみます。

若者たちは太陽族

https://twitter.com/fadingmemorys/status/1495266497928699905

この小説では時代を感じさせる人・ものが随所に登場するのも特徴です。ここでも「半袖シャツでなければしのげない暑さではないのに、派手なアロハ・シャツを着て、黒メガネをかけた青年が四人、喫茶店に入ってきた」という場面があります。

下に引用させていただいたのは、当時の太陽族の写真です。 ここでは青年たちを見て「太陽族ちゅうやつです」と解説する磯部に対し、「ほう、こういう格好をしよるのか。『太陽の季節』っちゅう小説にかぶれた若い連中は・・」と返す熊吾を想像してみます。

キューピー人形をもった知り合いも!

次にこの喫茶店に現れたのはヌード・ダンサーの西城あけみ(とその友人やマネージャーなど)、羽振りがよかった頃に熊吾がひいきにしていた女性でした。「あれ?ノブちゃん(伸仁)のお父さんや」と気付いた彼女は、「ファンからの贈り物らしいキューピー人形をかかえ」ていました。

下に引用させていただいたのは、当時流行っていたセルロイドのキューピー人形の写真です。ここでは、(飲んだくれの)仲間たちから逃れたい西城あけみのために、「この人形は、伸仁のためにもらうぞ」と奪うふりをして喫茶店から逃げる姿をイメージします。

https://twitter.com/odanii0414/status/887909490162401281

因縁の相手に売る?

熊吾は刀剣を売る相手として、かつて大衆の前で名誉を傷つけた海老原太一に思い当たります。彼は一財産を築き、日本刀のコレクターとしても有名になっていました。今度は「海老原太一に侮辱されに行くとするか・・」とひとりごとをいう熊吾、太一が会社を構える三宮に向かいます。

下に引用させていただいたのは昭和30年の阪急三宮ビルの写真です。熊吾が三宮駅に降りるのは7年ぶり(昭和31年現在)のこと。売買の可否を気にしながらも「かつての商売仲間の店やビルを捜したが、駅周辺の景観はあまりに様変わりしていて・・まったくわからなくなっていた」と驚く熊吾を、この写真の中に置いてみます。

海老原太一との交渉

熊吾に恨みを持つ海老原太一はあっさり刀剣の購入を承諾するはずもなく、予想どおり交渉は難航します。太一は「日本刀の収集は休憩中」とのこと、代わりに「いま私が凝っているのは猟銃です・・・英国製の特注物の味わいの深さってのは格別です」といいます。

下に引用させていただいたのは、 ホーランド&ホーランドの銃の写真です。この会社は1835年創業の英国王室御用達の高級ブランド、太一が収集した銃のなかにもこのブランド品があったかもしれません。ここでは(かつて兄貴分だった)熊吾に対し得意気に語り、優位性をアピールする太一の姿をイメージしてみます。

https://twitter.com/shift217/status/1151874944139059200

旅行の情報

関鍛冶伝承館

岐阜県の関市は、熊吾が資金繰りに用いた「関の孫六」の由来となった名工・孫六兼元の故郷です。東京国立博物館蔵のほか、この伝承館でも所蔵していて、下に引用させていただいたように展示もしています。

また、月に1度程度のペースで昔ながらの日本刀の鍛錬の実演もあり、火花が散るスリリングな現場を体感できます。

【住所】岐阜県関市南春日町9-1
【アクセス】長良川鉄道刃物会館前駅から徒歩約5分
【関連サイト】https://www.city.seki.lg.jp/kanko/0000001558.html

「太陽の季節」文学記念碑

喫茶店で熊吾がいったように、「太陽族」の由来は「太陽の季節」なる小説でした。作者は石原慎太郎氏で、この小説の芥川賞受賞から50周年を記念して平成17年に立てられた記念碑がこちらです。

逗子海岸海水浴場の葉山寄りにあり、下に引用させていただいたように「太陽の季節ここに始まる」の文字が印象的です。海水浴やビーチ散策の途中で気軽に立ち寄れます。

【住所】神奈川県逗子市新宿1-6
【アクセス】横浜横須賀道路の逗子ICから約10分
【関連サイト】http://www.zushitabi.jp/news12.html