宮本輝著「野の春」の風景(その1)

家族との別居生活

宮本輝氏の「流転の海」シリーズの最終巻「野の春」の風景をSNSの力を借りながら追っていきます。この巻は昭和41年の春からスタート。伸仁は大学に入り、次の年には20歳を迎えようとしていました。また、ホテルのレストランで職を見つけた房江は元気に働いています。家族と別居中の熊吾は事業を縮小しながらなんとか持ちこたえていますが・・・・・・

昭和41年の新聞から

下には「野の春」の舞台・昭和41年の新聞の写真を引用させていただきました。ベトナム戦争やビートルズの来日などが話題になっていますね。ここではアメリカ軍の北ベトナムへの空爆の記事を見ながら「憲法で戦争放棄をしたお陰で日本の若者は最前線に行かんですんじょる。それだけでもありがたい」と語る熊吾の姿をイメージしてみます。

「野の春」の頃の福島駅の風景

熊吾は「河内に借りた(伸仁の大学への)進学費用も返した。・・・・・・俺の親としての責任は果たした。しかし、松坂熊吾という『大将』の責任はまだ果たし終えていない。」と考えます。そして愛人の博美に対しては「博美がひとりで生きているようにしておかなければならない。・・・・・・博美の店から一分のところに大阪環状線の福島駅が完成した。その地の利を生かさねばならない」とも。

下に引用させていただいたのは昭和40年ごろの福島駅周辺の風景です。こちらの写真のどこかに博美の店を置き、京風おでん・土鍋で作るドテ焼きなどの料理を提供する居酒屋風の店内をイメージしてみましょう。

木俣の高級菓子への夢

チョコクラッカーでキマタ製菓を成長させた社長の木俣は次の夢を語ります。「私は小さな店を持って、そこで本物のチョコレートだけを売ってみたい。最高級のカカオバターを仕入れて、そこにグラニュー糖を入れて、大理石の台の上で練る」。また、値段は「一箱に直径三センチのナッツチョコレートが十個入っていて三千円くらい」とのこと。

下に引用させていただいたのは1919年創業でベルギー王室御用達の称号を授与されているマダム・ド・リュックのチョコレートの写真です。ここでは木俣が試作したベルギー風のチョコを試食した熊吾が「わしがこれまで食べてきたチョコレートとはまったく別ものじゃ」と熊吾が言うシーンを想像してみましょう。

熊吾の仕事の〆は

中古車センターでの業務を終了して帰るときに、熊吾が「必ずウィスキーの水割りを作って、一杯か二杯飲む」ことを知った佐竹(中古車センターの管理人)は熊吾のために「ジョニーウォーカーの黒ラベル」を購入し、事務所の机の抽斗(ひきだし)に入れてくれます。

下に引用させていただいたのは昭和40年頃には1万円ほどで販売されていたジョニ黒の写真です。ここでは「英国製の高価なウィスキー」を「せっかくのご好意じゃ。遠慮なしに頂戴するぞ」といいながら味わう熊吾の姿を想像してみます。

房江の社員旅行

房江の賄い婦の仕事はホテルで働く60人ほどの社員に昼食と夕食をつくる仕事でした。ときどきレストランの厨房を覗いて料理長がつくるソースのレシピを覚えていきます。そんな房江が楽しみにしているのが年に1回、秋に実施される慰安旅行です。現在は減少していますが昭和の時代には大半の会社が実施していました。

「去年は和歌山の那智勝浦温泉だった」とあります。下に引用させていただいたのは那智勝浦温泉・ホテル浦島の写真です。ここでは「洞窟のなかに温泉があり、そこからのぼってくる朝日を見ることができた」と感動する房江の姿をイメージしてみましょう。

旅行の情報

マダム・ド・リュック有明ガーデン店

本物のチョコレートをつくりたいという木俣の夢の箇所で登場してもらったマダム・ド・リュックの実店舗の一つです。下に引用させていただいたようにショーケースにはかわいいチョコが並んでいてどれを選ぶか迷ってしまいそうですね。カフェも併設され、お好みのベルギーチョコレートをその場で楽しめます。

住所:東京都江東区有明2-1-8
アクセス:有明駅から徒歩約5分
参考サイト:https://www.shopping-sumitomo-rd.com/ariake/shop/madamedelluc/

天領日田洋酒博物館

仕事の〆に熊吾が飲んだ昭和のジョニ黒など、レトロな洋酒が気になる方におすすめなのがこちらの博物館です。館長が学生時代から集めたコレクションは3万点以上。国内外の年代物の洋酒のほか、下に引用させていただいたような昭和を感じさせるレトロなグッズが並び、ノスタルジックな雰囲気にひたれそうです。夜にはバーもオープンするので、コレクションを眺めながらゆったりとした時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。

住所:大分県日田市本庄町3-4
アクセス:日田駅から徒歩7分
参考サイト:https://tenryo-hita-whiskymuseum.com/

南紀勝浦温泉 ホテル浦島

房江の勤める多幸クラブの慰安旅行先として登場してもらった洞窟温泉のあるホテルです。桟橋から下に引用させていただいたようなカメ形の無料送迎船を利用すれば、旅行のテンションも上がるでしょう。また、紀州藩のお殿様も帰るのを忘れるほどくつろいだという「忘帰洞」をはじめ、「玄武洞」など複数のお風呂があり、記念品がもらえる湯めぐり記念スタンプラリーも好評です。

住所:和歌山県東牟婁郡那智勝浦町勝浦1165-2
アクセス:JR紀伊勝浦駅から桟橋まで徒歩約6分
参考サイト:http://www.hotelurashima.co.jp/